九月に入りマサバが獲れなくなりましたが、代わりにサワラやアジが獲れました。
今回はサワラについて書こうと思います。
鰆
魚編に春と書いてサワラという漢字になります。
関西では、春に産卵のために陸近くに寄り、漁獲が多くなるためにこのような漢字になったようですが、関東では産卵前の栄養を蓄える冬に獲れ、それは寒ザワラと呼ばれ重宝されるそうです。
サワラはフィッシュイーターと呼ばれる海の食物連鎖の上位者で、アジやイワシなどを捕食します。
かなり鋭い歯をもっています。
写真でみると、たくさん並んでいるもののごく小さい歯で、そんなに強そうには見えないかもしれません。しかし、うっかりこいつの口に手を突っ込んで歯に触れてしまうと、 ふすっ という感じで抵抗なく刺さって切れます。切れ味がよいからあまり痛くはないんだけど、何故かなかなか血が止まりません。
サワラは単価が高くて獲れると嬉しい魚なのですが、この鋭い歯ゆえにひとつ大きな問題を起こします。
網に噛みつき、網を切って穴だらけにしてしまうのです。
巻き網漁を大雑把に説明すると、まず網で大きく魚群を囲ってからそれを小さく絞り込んでいき、最後に袋のような状態にした網に魚を集め、そこからタモですくい上げます。
この一連の工程の最後、魚を一か所に集める場所を「りょうどり」と言います。「漁獲り」なのか「両取り」なのか、由来や漢字はわかりませんが、とにかく網の中で一番大事な場所です。
ほんの10センチの穴でもあれば、7~80cmのスズキなどスルンと抜け出てしまうし、小さいけど値段の高い魚もほんとに大量に逃げてしまうため、この「りょうどり」は常に丁寧に補修します。
サワラ以外にもアカエイやタチウオ、カマスなど、りょうどりに穴をあける魚は多くいますが、サワラは他の魚に比べ、あける穴の大きさ、量が格段に多いのです。
たぶん、細かいけど切れ味鋭い歯がたくさん並んでいることに関係があるのだと思います。
サワラがまとまって獲れる時期は、補修をするそばから穴を開けられてしまうので苦労します。
こんなに凶悪な歯を持ったサワラが船上で暴れたら大変なことになりそうですが、実際のところはこの魚、海中から上げた途端に大人しくなります。
スズキは海中から上げてもビッタンバッタンと跳ねまわるし、アジやサバはシビビビッと暴れまくります。
しかるにサワラは、一度海水からあげてしまうとその長い体をグデーッと横たえ、ピクリとも動きません。尾びれを掴んで持ち上げても、微動だにせず生命の鼓動を感じない。
なすがまま、されるがままのマグロ状態です。サワラなのに。
サワラは往生際がいいとみる向きもあるかもしれません。
サワラ「うぬ、水から上げられた以上、もはやこれまで!」と観念しているのだと。
それはたぶん、買いかぶりすぎです。
実はサワラはかなりの虚弱体質で、衝撃に弱いのです。
身がとても柔らかく、ぶつけるとすぐに打ち身になってしまいます。打ち身とは身に血が回ることで、捌くと普通は真っ白な身がドス黒い血の色に染まってしまいます。こうなったらとてもじゃないが刺身にはできません。
それに加えて身がとても割れやすい。
野締めの時に体が曲がった状態で硬直してしまうと、出荷の箱詰めの際に体をまっすぐに伸ばさなければなりませんが、サワラはこれをすると身が割れてしまい価値がなくなります。
ほんとに、顔に似合わず非常にデリケートなので、扱いに注意を要する魚です。
しかし丁寧に扱って水揚げすれば、それはそれはおいしい魚なのであります。
有名なのは西京漬けですが、私が最近聞いたのはサワラの昆布締めで、これは実においしいそうです。
そんなサワラもそろそろ漁獲が減ってきました。
さて、次は何が獲れるやら。本来ならこの時期はサバやイナダがガンガン獲れる時期なんだがなあ。
私がこの大平丸ブログを受け持ってから三回目の夏が過ぎましたが、自分で思いますが「海の様子がおかしい」ということをよく書いています。
この写真では半分剥げていますが、通常は黒い粘膜状のもので覆われています。そしてこの黒い粘膜に毒を作り出す組織があるようで、要はこれが毒です。ただこの毒、指で触っても痛くもないしシビレもしません。刺されて体内に入った時から効力を発するようです。
写真の上方向が針の先端で、そちらから敵に突き刺さります。拡大してみるとこのように、両端に刺突方向とは逆向きに細かな刃が隙間なく並んでいます。



うちの船は今人員不足なので、スズキを拾う人間が減ると大変なのですが、しかしスズキを拾う時点で誰かがアカエイに刺されてしまうと更なる戦力ダウンになってしまうので、アカエイ拾い専属の人間は大事な役目なのです。
今月初め、強い南風が吹き続けていたある日の夜、船橋港の護岸の角、吹き溜まりのような場所で見つけたものです。
白い花びらが水面に舞い落ちたようにも見えるこれは、トビウオの稚魚です。500円玉にちょうど収まるくらいの大きさです。
これは花びらサイズの群れの近くに一匹だけ泳いでいた、少し大きめの稚魚です。体長は5cmほどでした。もはや成魚と殆ど同じ形をしています。そしてこいつはもう泳ぎを覚えていました。
いちおう成魚の写真も載せておきます。
仕事の合間に急いで写真を撮ったので全長は測れませんでしたが、この魚が入っている小判型のカゴの下辺の長さが40センチなので、上の写真のイシダイは40センチ少々の大きさです。
一番大きかったこれはたぶん、60センチ近くあるでしょう。重さが3・4キロでした。
なんだろうと思い水産会社の人に聞いたところ、「ワカシだよ」とのことです。ワカシとはブリの幼魚のことです。
顔つき、縞模様、尾びれの形、どこをとっても似ても似つかぬ、という言葉がぴったりです。