2018.7.17 そうめ

六月の後半から7月の前半にかけて内湾では南風がずっと吹き続け、巻き網はかれこれ二週間近く出漁できませんでした。
今はもうスズキの旬であり、身に脂もだいぶついてきて相場も上がってきているので、ガンガン獲りたいところです。
しかし率直に言って、六月はスズキの漁獲はあまり芳しくありませんでした。例年ならば獲れる場所を巡っても、あまり良い群れがいないのです。
こんな時に東京湾のベテラン漁師たちと話をすると必ず口にするのが、「ナガシミナミが吹けば海が変って獲れるようになるよ」というセリフです。「ながしみなみ」とは、ここらではしばらくのあいだ強い南風が吹き続けることを意味します。
七月に入ってから初めて出漁できたのは九日になってからでした。前回の出漁から二週間も間が空き、しかも南風がかなり吹いたので海の様子はだいぶ良い方向に変わっているだろうと、期待しつつ網を張りましたが、、、
網に入ったのは、大量のソウメでした。
このソウメのせいでえらい苦労をしました。
ソウメとは、イワシの小さいもののことです。
私はこのブログで常々、イワシが獲れると嬉しいと書いていますが、今更ながら付け加えますが獲れて嬉しいのはある程度成長した大きさのイワシです。
イワシはその大きさで小羽(こば)→小中羽(こちゅうば)→中羽(ちゅうば)→にたり→大羽(おおば)と区別されます。
だいたいスーパーなどで塩焼きや刺身用に売りに出されるのは中羽くらいからで、私達が狙って獲るのもこの中羽以上の大きさからです。

一か月前に使った写真ですが、この真ん中のサイズがギリギリで中羽と言われるくらいで、これより小さいものは小中羽、そしてさらに小さい、世間では小羽と言われるくらいのものを、私達は「そうめ」と呼んでいます。まあサイズに具体的な目安はなく、けっこう適当です。
そして大量のソウメが獲れたせいでなぜ苦労したのかといいますと。
今回のソウメの胴体の太さが、我々が現在使用している網の目の大きさにピッタリはまるサイズだったからです。
網の目にソウメが頭から突っ込んだまま、網から抜けなくなってしまったのです。海中に投じた網全般にわたって大量のイワシが刺さった状態になり、結果、その重さで網が揚がらなくなってしまいました。
網を海から引き揚げるのには油圧式の機械を使うのですが、通常を大きく超える負荷がかかると油圧は止まってしまいます。
しかし網はなんとしても揚げなければならないので、機械をだましだまし、ほんのちょっと網を揚げてはイワシを取り除いて網を軽くし、また網をほんのちょっと揚げて、、、と地道な作業を繰り返して、なんとか最終的には網を揚げることができました。
ちなみに通常なら海中に網を投じてから揚がるまでは20分程ですが、この時は6時間かかりました。
この日、内湾の巻き網船団のいくつかは私達と同じエリアで網を張ったのですが、皆、同じように「ソウメのベタ刺し」をくらって大変な苦労をしていました。
このソウメがもう少し大きく育って網の目に刺さらなくなるまでは、内湾で網を張るのは地雷原を歩くようなもので油断ができません。

ただひとつだけ、良い展望が持てるとしたら、あるベテランが言うには「秋口にイワシが大漁で稼げる年は、だいたい夏頃にソウメのベタ刺しをくらうもんだ。」とのことです。
ここ数年はサバやイワシの回遊がなくて振るわなかった内湾ですが、今年の秋はちょっと期待がもてそうです。

もうひとつ。前々回の記事でマトリという鳥について、「マトリはイワシが大好物で、イワシの大きな群れには必ずついてくる」と書きましたが、、、
この日、数十~百トン単位のイワシ(ソウメ)の群れがいたにも関わらず、私達はマトリを一羽も見かけませんでした。
う~ん。なぜでしょう。群れの大きさとしてはマトリがつくに十分と思われるのですが。

マトリがイワシの群れを追いかける際の基準には、群れの大きさ(魚の量)と同時に魚体のサイズも関わってくるのだろうか。

「大きなイワシの群れには必ずマトリがつく」という説には、まだ検証の余地がありそうです。