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2021.10.29 サワラの歯

「漁取り」が穴だらけになってしまったので、新しい網に交換しました。
「漁取り(りょうどり)」とは海中に投じた網をすぼめていき最後に魚が残る場所で、ここに穴があったら魚がどんどん逃げてしまいます。
この漁取りは全体の中でも特に太い糸で作られた網で構成されており、普通に使っている分にはそれほど切れたり穴が開いたりはしません。そして穴はキオリという補修で部分的に直せるので、網を交換するまでにはいたりません。

しかしここ最近サワラが網に多く入る日があり、そうすると網はあっという間に、補修が追い付かないほどにボロボロになってしまいます。
サワラの歯で簡単に切られてしまうのです。

そんなサワラの歯はこちら。(過去画像の使いまわしですが)

見た感じでは、小さくてそんなに切れ味が鋭そうには思えないかもしれません。
比較として太刀魚の歯をご覧ください。

どちらかと言えば、太刀魚の歯のほうが凶悪で切れそうです。
もちろん太刀魚の歯でも網に穴はたくさん開きますが、しかしそれはサワラの比ではないのです。
以下にその理由を解説いたします。
サワラも太刀魚も、網を締めこむ作業の時に顔が網に触れることがあるのですが、その時に網が傷つきます。
まずは太刀魚から。
下の青で囲んだ丸二つが太刀魚の開けた穴です。

先ほどの写真でわかるように、太刀魚の歯は長いうえに先端にカエシがあるので、網にぶつかると網の目にひっかかってそのままぶら下がってしまいます。

それを手ではがす時に網が傷つきますが、小さな穴が開くだけです。

一方こちらの黄色い線の横の、長い穴がサワラのものです。

サワラの歯は小さくてひっかからない上に切れ味が良く、さらに自身の体重も重いものだから、顔を突っ込んでしまうと自重で落ちながら網を切り裂きます。

糸と糸の結び目は節(フシ)になっており固いので、フシを避けるように斜めに切れます。
サワラが自ら網に顔を突っ込んでくるのではないのですが、網を締めこむ際にはどうしてもそういう状況が起こります。
こうしてサワラや太刀魚が入る漁を一か月も続けると、漁取りは修理不能なほどにボロボロになるのです。

そんな、サワラのせいでボロボロになるならもっと頑丈な網を使えばいいじゃないか。
と思われるかもしれませんが、網は全体の重量や沈降スピード、多魚種への汎用性など、色々とバランスを考えて構成してあるので、そう簡単な話でもないのです。

何より、太刀魚やサワラが我々の漁場で多く獲れるようになったのが数年前からなので、対策に妙案がまだないのが実情といったところです。

たまにスーパーでサゴシ(小さいサワラ)を一尾で丸のまま売っているのを見かけます。
買って捌くときには歯に触れぬよう、ご注意ください。

2021.10.12 すなめり?

一昨日、10日の午前11時頃なのですが、沖でスナメリの群れに遭遇しました。

今の時期は普段は夜に働いているのですが、この日は昼に魚を探していました。

ナギで天気が良いうえに波もなく、海面が遠くまで見渡せる状況で、魚群を探して航行していた時です。
親方が遠くの海面で何かが跳ねているのを見つけました。

私たちの漁場で跳ねる魚といえば、通常はボラかサワラの二択しかありません。そしてその時にいた海域は、過去にサワラが大量に獲れたことがある場所に近いところでした。
サワラは相場が良く獲れれば嬉しい魚です。

親方は、サワラが跳ね回るのはマヅメ(日の出もしくは日没の前後1時間ほど)じゃないかと疑問に思ったものの、しかし何かは継続して跳ね続けているので、気になりその場所に向けて舵をきりました。

近づくにつれ、それはやはりサワラとは違うようだとわかりました。
私は防振双眼鏡で見たところ、全身は見えなかったものの、黒っぽくてツルリと滑らかな体表の生物が水面で跳ねていました。

跳ねるといっても全身が水から飛び出すほどジャンプしているのではなく、水面に背中だけを出してすぐに潜るといった感じです。
しかしそれは大きいうえになかなかの勢いなので、背中を出す度にしぶきがあがり、遠目には魚が跳ねているように見えたのでした。
この光景が時間にして十数分、しかも同時にいくつかのしぶきあがることから、数匹以上いると思われる状況で繰り広げられました。

私は双眼鏡で見て、これはスナメリの群れだと確信しましたが、親方以下仲間のほとんどは肉眼だったのでよく見えず、「遠くで何かがパシャパシャしているのはわかったが、あれがスナメリなの?」という認識でした。

結局、こちらが近づこうとしてもその物も移動しており、肉眼で見定められる距離までは行けなかったのです。
また、遠すぎて写真は撮れなかったので証拠画像もありません。
しかし私は今回の事象は、スナメリの群れが水面で跳ね回っていたものと確信しております。

それでですね。
今回のこの出来事なんですが、私は怖いのです。

何が怖いかというと、地震です。
実はこのスナメリは、東京湾では通常はほとんど見かけない動物なのです。
私達にとっては、数年、下手したら十年に一度くらい、「お、今イルカが跳ねたぞ」  「え、どこどこ?」という会話があるくらいの頻度でしか現れません。

おりしも5日前、千葉県北西部を震源とするマグニチュード5.9の地震がありました。
一週間程度は同クラスの地震に注意と言われていますし、また最近、世界のあちこちで地震やら噴火やらが起きています。

そして大災害の前には動物の異常行動の事例がよく挙げられます。

このタイミングで、普段なら一頭みるのさえ稀なスナメリが群れて跳ね回っていたなんて、異常行動だよなあ、と不安になってしまいました。

まあ不安がってばかりいるだけでは精神的に参ってしまうので、できるかぎりの備蓄や備えをしておこうと思います。
皆さまも災害への備えは万端になされますよう。


底引き網漁船は巻き網より時化に強く、出漁回数が多いうえに昼間に働くことも多くいので、スナメリとの遭遇は多いようです。
底引きを数十年やっている人に聞いたところ、スナメリは年に2~3回は見かけ、必ず3~4頭ほどの群れでいるそうです。
しかしここ1年くらい、とんと見てないと言っていました。

2021.9.28 時化とセバ

時化が続いており、かれこれ二週間、まともに出漁できていません。
十年ほど前に比べると風が吹く日が多くなったことに加え、魚種の変化、コロナ禍における魚価の低迷など、様々な理由があいまっての時化の日もあります。
緊急事態宣言はまもなく解除されますが、その後の情勢はどうなるのでしょうね。

時化の日には網仕事をします。
ここ最近の網仕事は、予備の網を作るためのキアミのセバです。

キアミとは、漢字で書くとたぶん「生網」で、新品の網のことです。新しい糸を生糸(きいと)と呼ぶのと同じことだと思います。

セバとは、網と網を縫い合わせる作業、及び縫い合わせた箇所のことです。

「網をセバする」「セバしたところが切れた」という使い方をします。

ふと、「セバ」とはどういう意味か?と気になりました。
今までは何の疑問も持たずに使っていましたが、よく考えると意味がわからない言葉です。

そこで「せば」とグーグル検索したら、
『連語 ~~せば 「き」の未然形+接続助詞「ば」』と出ました。
これは違うので次はカタカナで「セバ」と検索したら、今度は北欧のブランドとかオランダ人とか、セバスチャンとか、およそ網とは全く関係ないものがでてきました。

求めている回答とは違うので、検索ワードを追加して
「セバ 網」で検索したところ、、、

私が去年書いた記事が真っ先に出てきました。
次点で新潟県、栃木県の漁師のブログが掲載されていましたが、その次はもはやよくわからないタイトルだらけでした。
う~む。

網を使う漁師であれば、網を縫う作業は日常茶飯事のことです。YOUTUBEには漁師も多くおり、様々なことを題材にしています。
なのに、「網が切れちゃったからセバしてみた」とか、「セバのやり方 ~How to sew the net~」なんて動画は、ありそうなもんですが、ぱっと調べた限りでは上画像の一つしか無いようです。

「網をセバする」という言葉を使い、発信しているのは極めて少数ということになります。

セバのことを「網をからげる」とも言います。「からげる」の意味は「しばってたばねる、くくる、しばる」なので、これなら意味はわかりますが、しかし私たちは「セバ」を主に用います。
ほかの地域の漁師は網を縫うことを何と言うのか気になるところですが、頼みのグーグル様で検索して行き着く結果が自分の記事では、手詰まりですね。

「網 からげる」で画像検索してみたところ、
「ゼラチンゲルの融解抑制用組成物および融解促進用組成物、ゼラチンゲル、ゲル状食品ならびにゼラチンゲルの製造方法」
なる写真が上部にでてきました。

網となんの関係もないじゃないか!と思いましたが、もしかして「からげる」と「ゼラチンゲル」の「げる」が一致したから表示されたのか?

グーグルって、駄洒落大好きのオッサンが働いてるんだろうか?

もしそうなら、私とは気が合いそうです。

2021.9.11 ワカシの成長

イナダが湾奥にまで入ってきました。
イナダはブリの幼魚で、40cmから60cmほどの大きさのものを指します。
だいたい40cm未満はワカシ、60cm以上はワラサになります。

画像の下は45cmなのでイナダ、画像上は66cmあるのでワラサです。

私達の漁場で獲れるのはイナダまでの大きさがメインで、それ以上のものはかなり少ないです。
納豆はサイズ比較用です。油揚げに詰めて焼くのは私はひきわり派です。

冒頭でイナダが湾奥に入ってきたと述べましたが、もしかしたらそれは間違いかもしれません。

どういうことかというと、実は先月の始めから小さいワカシの群れが湾奥に入ってきていたのですが、このワカシが育ってイナダになったのか、それとも別にイナダの群れが新たに入ってきたのか、私にはわからないのです。
昔から「イナダ(ワカシ)はひとしお毎に大きくなる」と言われています。
「ひとしお」とは潮位が大潮から小潮まで一巡する期間のことで、二週間ほどです。

先月からいたワカシの群れは、トン単位で網に入ることもありましたが、全て逃がしていました。
サイズは計測していないのですが、30~35cmほどだったように思います。

ワカシにはほとんど需要がありませんが、イナダになれば売れるようになり、漁獲対象になります。
ワカシが獲れても逃がすと、しばらくするとイナダが獲れたことが過去に何度もあります。
その逆の、イナダが獲れた後にワカシが回遊してくるということは、私は今まで経験がありません。
ワカシの後にイナダあり、イナダの後にワカシなし。

それゆえ私は、獲れたイナダは過去に逃がしたワカシが育ったものと、今までは思い疑っていませんでした。
ワカシってほんとに成長が早いんだなー、としか思っていませんでした。

しかし最近、冷静に考えてみると、いくらなんでもそんなに早く育つかね?と疑問を感じるようになりました。

農林水産省のブリの成長関連の記述によれば、ブリは卵からかえって1年で約30cm、2年で約47cm、3年で約61cmに育つそうです。
30cmになった後は、1年で約15cm育つのですね。

今回の例では8月初めに30~35cmだったと思しきものが、1か月ほどで45cmに育ったということになります。
1か月で10~15cm大きくなった計算。
いくら東京湾が餌が豊富とはいえ、そんなに一気に育つかなあ?

しかしそうは思ったところで、どうやって検証すればよいのかわかりません。
結局、ワカシが育ったのか、イナダの群れが入ってきたのかは謎のままです。

刑事ドラマとかでよく、「あの小物は泳がせておけ。もっと大きな獲物が釣れるかもしれん」
なんて定番のセリフがありますよね。
東京湾のイナダの場合、泳がせておくと大物になる前に湾から出ていっちゃうので、そのままサヨナラです。

2021.8.30 船上のサラリーマン

今月半ばは気温が低く、最高気温が20度なんて日もあったのに、ここ数日は35度前後の夏らしい暑さが戻ってきました。

私たちは今の時期は夜に出港して働きますが、やはり暑いです。
船にはエアコンなんてついていないので汗だくになりますが、少しでも暑さを和らげるには服の選択も大事です。
作業着屋を覗けば今は、冷感・吸汗・速乾の機能をもった服がたくさんありますから、ほとんど皆、それを着ています。

普通の服を着て汗をかくと、重くなった上に肌に張り付き、いつまでもジットリとして不快です。しかし上記の機能性衣料はその不快をだいぶ軽減してくれるのでありがたいです。

暑いのに長袖なのは、素肌だと魚の粘液やクラゲのせいでかぶれたり、網を挙げる時に前腕が擦れて傷だらけになるのが嫌、という理由があります。

しかしこういった機能を持った衣料って、手ごろな価格で手に入るようになったのは割と最近になってからのような気がします。

私が新人で船に入った20年前くらいは、若者は皆、夏はタンクトップで働いていました。
そして、その当時の年季の入ったベテラン漁師達は何を着ていたかというと、多くはワイシャツでした。
こちら、今も現役のワイシャツ装備のベテラン漁師です。

作業着にワイシャツ???
と、初めて見たときは驚きましたが、聞くと、ワイシャツは濡れてもすぐに乾くし、肌触りがサラサラで心地よいのだそうです。
それにブランドものでもなければ安価だし、しかもけっこう丈夫で長持ちするとのことです。一枚が余裕で一年以上もつそうです。
我々の職場では汚れやらホツレなどの見栄えは気にしなくてよいし、通常よりずっと長く使えます。


こちらのベテランはもう70歳で船団の最高齢ですが、若者と遜色なく働いています。
昔から漁師一筋で経験は豊富であり、多くの修羅場も潜り抜けてきた人です。
そんなベテランが選択し続けているという事実が、ワイシャツの有用性の証といえるでしょう。
こうしてみるとワイシャツは良いことづくめですね。

まあ、持ち上げておいてナンですが、自分で使う気にはならないのですが。
いやだって、いくら見栄えを気にしない職場だからって、自分が沖でワイシャツを着てるシーンを想像すると違和感があるんだもの。

しかしワイシャツメーカーの人も、まさか沖で作業着にされているとは思っていないでしょうな。

2021.8.14 ヒラスズキ

スズキが旬を迎え、脂がのってとてもおいしいです。

先ほどキッチンのグリルでスズキのカマを焼いていたら、あまりの脂に火がついて燃え上ってしまいました。

私たちのメインターゲットのスズキですが、網に入ったものを海中から運搬船に上げた後、一尾ずつ手で拾いあげます。
そうして数多くのスズキを拾っていると、ごくまれに、ちょっと普通とは微妙に違うスズキに出会うことがあります。

それがヒラスズキです。
上がヒラスズキ、下がスズキです。
統計データは無いので私の感覚ですが、普通のスズキが数万尾に対してヒラスズキが一尾、といった程度で網に入ります。

ヒラスズキは生態に不明な点があり漁獲も少なく、スーパーなどでは見かけず、世間一般にはあまり知られていない魚だと思います。
しかしその味はスズキを上回るとされ、市場ではスズキの倍以上の値段で取引されています。
見た目はかなり似ていますが、区別するポイントをご紹介します。

①色。
今の時期のスズキは金色っぽくなりますが、ヒラスズキは全体が銀色です。

②体形。
尾っぽに近いほうの背びれ、そこから尾にかけて、スズキはなだらかですがヒラスズキは大きくクビレています。
③シタアゴ。
ヒラスズキにはシタアゴにウロコがあるが、スズキにはありません。
↑ヒラスズキ
↑スズキ
この三つのうち、③が生物学的な違いであり、ここを見るのが確実な見分け方のようです。
しかし捌いた時に包丁でこすってみましたが、普通のウロコのように剥がれるわけではなく、私にはちょっとわかりづらかったです。

さて。
お刺身にしました。
右がヒラスズキ、左がスズキです。
左のスズキはサク取りに失敗して変な形になってしまいました。人前に出すのは恥ずかしい代物ですがご容赦ください。

見たところ、身質に大きな差異は認められないと思います。
食べた感想ですが、どちらもおいしいです。

正直に言いますと私には、味にそれほどの違いは感じられませんでした。

値段が倍以上も違うのにはそれ相応の理由があるわけで、市場ではヒラスズキのほうがおいしいと評価されているのですから、私の感想には「味のわからねえ野郎だな!」と思われる向きもあることでしょう。

まあしかし、私はそう感じたので仕方ありません。
ヒラスズキの旬は晩秋から冬にかけてらしく、旬まっさかりのスズキと比較すべきではないのかもしれません。
魚って、旬とそれ以外の時期では味が大きく違いますものね。

ヒラスズキは今のところ、釣るか高値で買うかしか入手方法がありませんが、近年、養殖が始まっているようで、それが軌道にのれば身近な魚になるかもしれません。

2021.7.30 ハモの歯!!

70cmほどのハモが獲れました。
毎年この時期には数匹単位ですが網に入ります。
普段なら活かして運べばなかなか良い値段がするのですが、現在はコロナ禍であまり売れません。
親方に聞いたら持って帰ってよいと言われたので、ありがたくもらって帰りました。
わたくし、今までハモを食べたことも捌いたことも無く、楽しみでルンルン気分で持って帰りました。
そして捌く前に写真を撮っていたのですが、その時、非常に驚いたことがありました。

今回のタイトルである、ハモの歯。

それを見たときに、思わず、ウヒョッ!?と変な声が出てしまいました。
そのハモの歯とはこちらです。
まあ横からでは、何が変わっているのか多分わからないことでしょう。
では、正面から、上顎(うわあご)に注目してご覧ください。
おわかりでしょうか。

上顎の歯が、口の真ん中に一列に並んでいるのです。
とがった上顎の先端には牙のような歯が左右対称に生えているものの、普通だったら馬蹄型に歯が並んでいるべき場所には何もなく、真ん中に一直線に歯が生えています。

なんですかこれ?

なんでこんなことになっているの?

普通、歯って、上と下でだいたい同じ位置に対応しあって生えてますよね。
図にするとこんな感じで、凹と凹が合わさります。
これで歯で物をかみちぎったり、すりつぶしたりできるわけですよね。

しかるにハモは!
このように、下顎の凹と上顎の凸が嚙み合わさるのです。

う~む。
嚙み合わせは非常によろしい。
隙が無い。

しかし、この歯並び。
なんのメリットがあるのでしょう?

こんな変わった歯並びをした生物を、現生生物では私は他に知りません。
わざわざこんな進化をしてきて、そして生き永らえているのだから何らかのメリットはあるのでしょうが、いったいどんなメリットがあるのか私には想像がつきません。

ハモって、私としては、見た目からしてウナギやアナゴとたいして変わらないと今までは思っていたのですが、しかし実際はこんなに異質な魚でした。
見た目ってアテにならないもんですね。

2021.7.15 あじはあじなり

マアジが少々、網に混じって漁獲されます。
私たちの働く漁場で獲れるものは画像下の小振りのサイズが殆どで、上の大きめのサイズはあまり獲れません。
オカズとしてもらって刺身にしましたが、小さいものは三枚におろした片身がそのまま一口分なのでちょうどよいです。
私はマアジはいつ食べてもおいしいと感じます。
年中いつでも、食べると「うん、うまい!」と思い、旬で脂がのったものは「うおおお!うめえ!!」と思います。
おいしい、もしくは非常においしい、の二択しかなく、今までの人生で、マアジを食べてマズいと思ったことがありません。
魚の味にかんして、以前、季節外れの細いイワシを食べてはっきりとマズイと感じたことはあるし、自分が漁師だからといって採点を甘くしているつもりはありません。
マアジは、季節・場所・調理法を問わず、どこで食べてもおいしいものにしか出会っていません。

 

江戸時代の学者の新井白石が、その著書の「東雅(とうが)」という語源辞典でアジについて、
「アヂとは味なり その味の美をいうなり」と書いており、
「鯵ってのは味が良いからアジと言うんだよ」と聞いたことがある方も多いことでしょう。
アジがおいしいという意見には完全に同意できますが、ここで疑問なのが、なぜアジなのか?ということです。
四方を海に囲まれた日本において、おいしい魚は無数にいるのに、なぜアジが美味の代表に選ばれ、「味」の名を冠されたのか?

例えばマダイ。その姿・色・味の全てにおいて良しとされ、「あやかり鯛」という言葉があるくらい日本の魚界では重用されています。
マダイとマアジ、どちらがおいしいかと問われれば、私は非常に迷います。
また例えば、タイは高級であり庶民には手が届きづらかったとしても、イワシやサバは古来より大衆魚として愛されています。
イワシは平安時代には下魚とされ、貴族階級が口にすべきものではなかったのに、紫式部(or和泉式部)は好物で夫に隠れて食べていたという逸話が残されているほど、昔から味に定評があります。
サバは「鯖街道」なる道が歴史に残るほど人々の生活と切っても切れぬ関係の魚であり、味に関しても言わずもがなです。
「其味の美をいふなりといへり」というのが名の根拠であれば、マダイやマイワシやマサバがマアジと呼ばれてもよかったのでは?

 

新井白石さんの著書にイチャモンをつけてしまいましたが、この東雅という語源辞典に関するブリタニカ国際大百科事典の解説には、「こじつけも多い」なんて書かれています。

 

「味がいいからアジ!」てのはまあ、冗談半分の説と私は思っておきます。
ちなみに白石さん、鰯(いわし)については
「イワシはヨワシなり」と書いています。
なんかこういう例だけみちゃうとこの白石という人、ただの駄洒落かラップ好きのおじさんよね。

2021.6.29 アカクラゲ 毒の痛み

夏が近づき気温の上昇に伴い、アカクラゲの毒の威力も増してきました。


(毒の成分に季節ごとの変化はないと思いますが、夏場はそれを受ける人間の毛穴が開きがちになるため、アカクラゲ毒の痛みを強く感じます)

アカクラゲの毒は、人間に重篤な害は及ぼさないものの、仕事に少なからず支障をきたすほどのダメージは与えてきます。

アカクラゲ毒の痛みですが、系統としては「からさ」に近いと思います。
以前、アカクラゲが目に入った際の痛みを、「ラー油を目に垂らす」と比喩したことがあります。
しかし後になって、タバスコのほうが近いと気づきました。

ラー油は油分のせいで辛さがいくらかマイルドになるのに対し、タバスコの辛さはソリッドであり、そのヒリヒリ・ピリピリ感がアカクラゲが付着した感覚に近いです。

先日、自分の頬にラー油とタバスコを塗り付けて試してみたところ、そのように思った次第であります。
さすがに目に点す度胸はありませんでした。
まあ、殆どの方にはラー油だろうがタバスコだろうがどっちでも全く関係ないでしょうけれど。

そしてこのアカクラゲ毒ですが、人により効き具合がだいぶ違います。
アカクラゲが大量に入った時は、私はフェイスガードなしには仕事ができません。
しかし仲間の中には、フェイスガードは邪魔だからしないという者がいます。

↑スネまで浸るほどのアカクラゲの海

私も、フェイスガードなんて邪魔で着けたくありませんが、アカクラゲ汁が目に入る痛みに耐えきれないので仕方なくつけています。
着けない者に痛くないのか問うと、「いや、そりゃ痛いよ」と言いはします。
が、しかしそれでも、フェイスガードを着けなくても耐えられる時点で、私よりアカクラゲ毒に強いことに間違いありません。

このように、痛いと言いつつもどこかしら余裕を漂わせる者が船団に2人いますが、彼らには共通点があります。

2人とも、「からい食べ物に強い」のです。
例えば最近のペヤングの獄激辛みたいなやつを、「からいからい」と言いながら普通に食べちゃうのです。

私だったら、麺一本でむせて吐き出して終わりです。

身近なたった2人の例をもって法則を導き出すのには無理がありますが、とりあえず私の中では今、
「からい食べ物に強い者はアカクラゲ毒にも強い」という仮説が立っております。
俗説では「からい物に強い人は痛みにも強い」と言われることもあるし、あながち間違っていないかと思っています。

今まで散々アカクラゲの被害について書いてきましたが、例え購入した魚体に付着していても、水で洗い流せば全く何の問題もありませんので、ご心配なさらぬようお願い申し上げます。

クラゲについては書きつくしたかと思ってましたが、まだ書き足りないことがいくつか出てきたので、またいずれ。

2021.6.12 クラゲの季節

出漁すれば連日、クラゲが大漁御礼状態です。

大漁御礼とはもちろん皮肉で、実際は大迷惑です。
東京湾内湾で網に入るのは、主にミズクラゲとアカクラゲの二種類のみですが、ミズクラゲはその量の多さ、アカクラゲはその毒で我々を苦しめます。
詳しくは過去に何回か書いているのでそちらをご覧ください。

アカクラゲ↓

2020.6.15 東京湾アラート

2019.6.28 ミズクラゲ

私の感覚では今年はアカクラゲがちょっと少な目な気がします。
出漁回数がコロナ前に比べてはるかに少ないとはいえ、海面に見えるアカクラゲがここ数年では少ない印象です。
まあ、あくまでも「ここ数年では」という中での話です。
一昨年の今時期には、アカクラゲは年々増加し、今年(2019年)は過去最大の量がいる、と書いていました。

赤クラゲ2019 2019.5.19

私としてはこれらのクラゲの迷惑さについてほとんど書いてしまい、残るはもはや愚痴を書き連ねるくらいかと思っていましたが、そういえば、ミズクラゲの魚群探知機の映り方を書いていませんでした。
魚群探知機は、高周波と低周波の二つの音波を船の真下に発し、その反響で海中・海底の様子を探ります。
画面は真ん中で左右に分割され、左側が低周波で右が高周波画像です。画面の右に最新情報が表示され、左側にスクロールされていきます。

大雑把に解説すると、低周波は広範囲をあっさりと探査するのに対し、高周波は探査域は狭いがはっきりと映るというのがそれぞれの特性です。

実際のところは、私たちが働いているのは水深がせいぜい20数メートル程度までなので、画面には左右ともに似たような画像が映り、大きな差は私にはわかりません。
しかし唯一、ミズクラゲの大群を相手にすると、このようにハッキリと大きな違いが画面に現れます。

高周波には物体の反応が色濃く映っているのに、低周波には何も映っていない。
普通の魚の群れや何がしかの物体であれば、このような映り方はありえません。
これは数十~100トン単位のミズクラゲの群れで間違いありません。

ただ残念なことに、なぜクラゲのみがこのような映り方をするのかは、私にはわかりません。
推測としては、クラゲは95パーセントが水分だから、低周波だと突き抜けてしまって反応せず、高周波ではクラゲの残り5パーセントの成分をしっかりと拾い、このような映り方になる、のかなあ?と、アヤフヤながら考えております。
物理素人の私が適当に考えただけなので、信じて他人に話したりしてはいけませんよ。

とまあ、このようにミズクラゲは魚探に移ることは映ります。
しかし先ほど書きましたが、魚探が探れるのは船の真下のみです。
網を張るとき、その網に入る場所をいちいち全て探査などしません。
ですから、絶対量が多い以上、どうしてもクラゲが網に入って難儀します。

20年以上昔、大平丸船団のボスだった人のお言葉に、
「クラゲが怖くて東京湾で漁師ができるか!」
というものがあります。

ごもっとも。
ごもっともではあります。が、しかし。
クラゲ、東京湾から消えてくれないかなあ。