大平丸ブログ」カテゴリーアーカイブ

2018.6.19 いわし

当ホームページの2015年11月29日の獲れたて情報の記事ですが、
「マイワシが少し入りました。大きな群れがいるかと思いましたが、空を見るとその様子はなさそうです。」
という文章が書かれています。
たぶん殆どの人には意味がわからないと思うので解説と補足をします。
三年前のこの日、網を張ったら500キロほどイワシが獲れました。それまでは全然獲れなかったのに、いきなり現れたのです。
イワシは単価こそ安いものの、大きな群れが湾内に入ってくれば毎日数十トン単位で獲れるため、良い稼ぎになるのです。
なので、突然イワシが獲れると私達は稼ぎになるかもと期待をするわけです。
しかし結局この時はその後イワシは全く獲れず、ただの単発の小さな群れが網に入っただけだったのでした。
冒頭の文章の「空を見上げる」意味ですが、イワシの大群が東京湾内に入ってくる時は、必ずマトリという鳥が一緒についてくるのです。そして私達がイワシを狙って網を張ると、私達の頭上に集結して旋回し、網からこぼれるイワシを狙って大騒ぎするのです。
マトリは俗称で、正式にはオオミズナギドリといいますが、まあマトリのほうが言いやすいですね。この鳥は普段は東京湾の内湾では全く見かけません。
マトリはイワシが大好きなようです。小さい群れにはついてきませんが、数十トン単位のイワシの群れには必ずついてきます。
だからイワシがちょっと獲れた時には空を見上げ、マトリの姿を確認すれば、大きな群れがきているどうかの判断ができるのです。

先週、イワシが一回の網で1トン獲れました。しかしマトリは一羽も見かけなかったので、今回も単発の小さな群れだったということです。
ちなみに今回獲れたイワシですが、同じ群れなのに大きさがマチマチでした。上から100グラム、71グラム、47グラムです。
イワシが大漁の時は殆どの魚体が同じ大きさで揃っています。
そのことからも、やはり今回の群れはイレギュラーと私は考えています。
願わくば今回の群れは先陣で、これからドドッとイワシ本隊に突入してきてほしいものです。
しかしよく考えてみると、先陣の偵察部隊を私達が全滅させてしまったから、もしかして本隊は危機を察知して湾内に入ってこないかも??
どうしましょ、、、

2018.5.31 イシダイ

イシダイが4匹、網に入りました。
仕事の合間に急いで写真を撮ったので全長は測れませんでしたが、この魚が入っている小判型のカゴの下辺の長さが40センチなので、上の写真のイシダイは40センチ少々の大きさです。

一番大きかったこれはたぶん、60センチ近くあるでしょう。重さが3・4キロでした。
イシダイは子供の頃は縞模様がはっきりしてますが、老成すると胴体の縞は消えてクチバシの周囲だけが黒くなります。

イシダイは岩礁や根に住む魚で、「磯の王者」などと呼ばれることもあります。釣り場に行くのに船が必要だったり、釣り餌にアワビ・ウニ・イセエビを使うのが普通だったり、そしてそこまでしてもなかなか釣れなかったりするので、釣り師には「幻の魚」といわれることもあるそうです。

基本的には巻き網漁の網に入る魚ではありません。まあしかしなにかの拍子でちょっと沖に出ることもあるようで、ごくたまに獲れます。感覚で言うと一年に数回獲れる程度です。
それが今回、一回の網に4匹入りました。
かなり珍しいことです。
オキエに理由を聞いてみたところ、「根のあたりの水が悪いから浮いてきたんだべ」とのことでした。

「水が悪い」とは漁師がよく使う言葉です。文字通りに捉えるとなんだか、水が汚いとか汚染されているというように思われてしまうかもしれませんが、そうではありません。
魚は通常、その魚にとって心地の良い温度や、塩分・酸素濃度の海水域で生息している訳です。その魚の好む状態の水を良い水、逆の状態の水を悪い水と、魚の視点からの海水の評価を言っているのです。
水の状態の良否は、それこそ魚によってマチマチです。
だからスズキ漁が芳しくなく、「水が悪くてスズキが居ないなあ」という時でも、ボラは大喜びで跳ねまわっている、なんてこともあります。

先述の通り、イシダイは釣れず、網に入らず、生育が遅いので養殖も盛んではない、なかなかレアな魚です。
こんな魚が4匹もまとまって獲れたのは景気の良い話です。今年はこれから湾内にも活気がでてくる前触れと思いたいです。

2018.5.19 ワカシ?

今月前半の東京湾の様子はよくありませんでした。
連休で休みが多かったうえに強風続きで殆ど出漁できず、しかも出てもスズキがあまり獲れません。
しかしここ最近、カマス、イシモチ、サバなどの、型の良いのがちらほら混じり始めてきて、だんだん夏の海に近づいてきたように感じます。そろそろスズキ漁も本格化することでしょう。

知らない魚が網に入っていました。
全長は12、3センチほどです。
なんだろうと思い水産会社の人に聞いたところ、「ワカシだよ」とのことです。ワカシとはブリの幼魚のことです。
その場には水産会社の人が三人いましたが皆、口を揃えてワカシと言いました。

いやいやいや。いやいやいや。
この水産会社の人たち、先月はこの魚をワカシと言っていたのですぞ。
顔つき、縞模様、尾びれの形、どこをとっても似ても似つかぬ、という言葉がぴったりです。
納得がいかなかった私は今度は仲間の漁師に聞いたところ、皆、ワカシではないと答えました。
しかし、では何という魚かと聞くと誰も知らない。
以前、スマホの画像検索でシマガツオをあっという間に探し当てた仲間が今回も調べてみましたが、わかりませんでした。

結論を言いますとこの魚、ブリの幼魚でした。
水産会社の人たちの言っていたことが正解でした。
ただし!負け惜しみではないですが、今回のような大きさのものは「モジャコ」と呼ばれているようです。
負け惜しみではありません。負け惜しみではありません。

この「モジャコ」という言葉を聞いて、そういえば何年か前にもこの魚が獲れて、その時、仲間のお魚博士が「これはモジャコです!」と言っていたのを思い出しました。
たぶん私はその時、「ほえ~」という感じで聞き流してしまって、たいして記憶に残っていなかったのだと思います。

水産会社の方達、信じなくてスイマセン。
お魚博士の山本君、聞き流しててゴメンナサイ。

2018.4.23 イナダ

今年の四月は例年に比べて陽気が激しい気がします。台風並みの風が吹く日が何日かあったし、ここ数日は真夏みたいな暑さだったり。四月って、こんな感じでしたっけ?

陽気に関係あるのかはわかりませんが、先週、変わったことがありました。
イナダがまとまって獲れたのです。(まな板は幅47センチ)
イナダ(ブリの幼魚)は日本中で獲れるし養殖も盛んなので年中スーパーなどで見かけることと思います。
通常だと、私達の働いている東京湾の湾奥には、夏の終わり頃に回遊してきて網に入ります。
しかし四月にまとまって獲れたことは、私の17年間の経験ではありません。漁師歴60年以上の社長も、こんな時期に入るのは記憶にないと言っていました。
去年からタチウオやサワラなどが、湾奥の今まで獲れなかった場所で獲れるようになりました。ベテラン漁師は「海の様子が変わっているなあ」と言います。
海水温や潮流や天候など様々な要因が複雑に絡んで漁獲種に変化がでてくるのでしょうが、今回のイナダの回遊もその一環なのでしょう。

ところで今回獲れた魚についてですが、通常秋に回遊してくるイナダに比べてかなり痩せていました。
卸会社や他の船の人達は殆どワカシと呼んでいます。
この魚はワカシ→イナダ→ワラサ→ブリと呼称が変わりますが、各段階に統一された明確な基準はありません。体長35~40センチ以上がイナダ、それ以下はワカシ、と、大雑把に区別されています。
今回のものは40センチ以上あるので私はイナダに区分しましたが、周りでは、身が痩せていて軽いからこいつはワカシだ!という意見が多かったです。
食べてみたところ、やはり身には脂がなくあっさりした味だったので、私は切り身を醤油漬けにしました。漬けてしまえば味は調味料で補えるし日持ちするし、お茶漬けにしてもおいしいし、良いこと尽くめです。仲間はこのイナダでナメロウを作って、うまかったとのことです。

このまま東京湾に群れが居着いてくれれば、豊富な餌で脂がノリノリになって更においしいくなること間違いなしなんですが、まあそううまくはいかないのが世の常ですよね。
今年はどんな海になるのかなぁ。

2018.4.1 花見

先週の木曜日に花見をやりました。
ほんとうは出港予定でAM1時に集合したのですが、けっこう風が吹いていたうえ今月は海の様子がまったくもって悪いので、無理して出漁することはないと親方が判断しました。
そして網仕事ではなく、ちょうど見頃の桜を愛でようということになりました。
会社から歩いて30分ほどのところに、川を挟んで桜並木が続いている美しいお花見スポットがあり、毎年いまくらいの時期に時化ると、そこで花見と酒盛りをするのが恒例なのです。
そのような訳で木曜日、朝3時から花見を始めました。
ちなみに翌日の金曜日は予報が完全に悪く、この花見の開始時点で金曜は時化で休みにするとのお達しがありました。そして土曜日は最初から休日なので、つまるところいきなり三連休になりました。
翌日の仕事の心配はしなくていいから、思い切り飲んでくれ!という親方の心意気です。酒もツマミも親方がお金を出してくれます。

ちょっと話が変わりますが今月の初めの記事で、3月2日の朝4時に集合して9時まで待機してそれから出港、仕事が終わったのは21時と書きました。ちょうどその日、新聞の取材も来ていて、同じことが書かれていました。
この記事だけ読むとかなり長時間の拘束で、こんなことが毎日続くとしたらやってられない、と漁師志望の人に敬遠されてしまいますね。
詳しく書かなかった私が悪いのですが、予報ではこの日を逃すとその先1週間は時化が続く見込みだったのです。現に2日の次に出漁できたのは9日後の11日でした。だからこの2日の日は親方は何としても出漁したかったということは理解してもらえると思います。

話を花見に戻します。さっきサラリと書きましたが、朝3時開始です。
さすがに私達の他には誰もいませんでした。
しかし私には驚きだったのが、4時くらいになるとウォーキングする人たちがけっこう居るんですね。まだ真っ暗なのに、ヘッドライトを装着してたり、手にライトを持ってたりして。
私としては、(こんなに朝早くから運動するなんて、いったい何時に起きてどんな生活リズムなのだろう?)と疑問に思います。

そのウォーキングしている方々は私達をみて、(こんな朝っぱらから酒を飲んでいるなんて、一体どんな集団なんだろう?年齢は若いのからオッサンから年寄りまでバラバラだし)と色々疑問に思うことでしょうな。

2018.3.20 朝市

先週の土曜日は朝市でした。
大平丸の魚の卸先である株式会社ダイサンでは、鮮魚のほかにスズキの唐揚げを売っています。
新鮮なスズキを業務用のフライヤーでその場で揚げて販売するため、人気は上々でいつも行列ができます。
まあ新鮮と言ってもさすがに、生きているのを捌いて揚げるわけではありません。大量に仕込まねばならないので、準備は前日にやります。水揚げされたスズキを三枚におろして皮を引き、一口サイズにきりわけるのです。
今回、ダイサンが人手不足だったので私も手伝ってきました。
私はスズキはまあそこそこきれいに捌く自信はあったので余裕の気持ちで臨んだのですが、けっこう苦労しちゃいました。
ちょっと厚手の手袋(ビニール手袋?)をはめて作業せねばならなかったのです。
手袋をはめて魚を捌くと、全く勝手が違うものですね。
魚体に包丁を入れた時に刃先がどこにあるのか、全然感じられない。何匹か捌いて慣れるまでは、中骨にお肉を盛大に残したり、切り身をグズグズにしてしまいました。
指先や手のひらの感覚って普段そんなに意識しないけど、やはりとても大事なんですね。

このスズキの唐揚げ、塩コショウとニンニクで下味がつけてあり、アツアツでおいしいです。ほんとに獲れたてのスズキを捌いて作ってます。人によっては「高級魚のスズキを、しかも鮮度抜群のものを唐揚げにしちゃうなんて、なんて贅沢なことをしやがる!」と文句を言いたくなるかもしれません。
しかし数年に渡って朝市で出し続け、いまや行列ができるようにまでなったからには、スズキの唐揚げを販売することにしたダイサンの判断は正しかったといえるでしょう。

こんなスズキの唐揚げが食べられる「船橋漁港の朝市」は
毎月第三土曜日、朝9時からやってます!!
(8月、12月、1月はやっていません)

2018.3.6 初漁

3月になりました。船橋巻き網漁の始まりです。

2日に今年初の漁に出ました。
朝4時に集合したものの風が強く、凪る(なぎる)のを待って
9時に出港。網を一回張ったらちょっとした機械トラブルがあり、一度帰港し修理して再び出港。
最終的に20時に帰港し水揚げしました。
漁獲したのはスズキとセイゴ。この時期としてはなかなかの量が獲れました。
今年もスズキが獲れるといいなあ、と思います。

2018.1.28 整備期間

今年は一月から整備期間に入りました。
一月と二月は出漁せず、船の整備と網の補修をやります。
今の時期は私達にとってたいして魅力のある魚はおらず、また時化の日も多いので、今のうちに悪いところを徹底的に直してしまおう、という具合です。
船の整備と網の補修はそれぞれ専属の組に分かれて仕事をします。
朝の7時から始まって適当に休憩や食事をはさみ、だいたい15時半から16時くらいまでやります。

私は網組で、これは私が網仕事に使う道具です。

網針、包丁、縫い針、サシ、スパイキーという物です。

メインの網の小さな穴をふさいだり網と網をつなぎ合わせたりするだけなら、この中のオレンジ色の針と小さな包丁だけ持っていれば事足ります。
しかし一口に「網」といっても、様々な太さの綱やサイズの違う網で構成されており、全体を補修するにはそれぞれの部分に対応した道具が必要になります。
綱を補修するにはビニールテープやスパイキーは必須です。
いずれ写真付きで説明しようと思います。

それにしてもいつも思うんですが、網と綱って漢字、紛らわしいですよね。
皆様、ちゃんと あみ と つな を読み分けていただけました?
漢字を作った人、もうちょっとなんとかならんかったのか。

2017.12.18 寒さ耐性

一昨日の話です。
今の時期、コノシロは昼間の暖かい時間帯に獲れやすいので、昼の11時に出港しました。
しかし前回獲れた場所を含めあちこち回ったのですが、魚群に遭遇することはなく、魚は何も獲れないまま夜の10時には帰港しました。
気温は昼間の最高気温でも9度と低く、寒いし魚は獲れないし、悲しい一日でした。

毎年こういう寒い時期になると思うのが、日本海側や北国の漁師はここよりはるかに寒い環境で働いているのに、私は東京湾程度の寒さで愚痴をこぼすのは、気合が足りないからではないのか?ということです。
冬なんだからみんな寒いのは当たり前だし、北国の漁師はもっと寒い中で働いてるんだから、ブツブツ文句言うんじゃねえ!と言われたら、反論のしようがありません。
みんなは耐えて働いているのに、自分だけは寒い寒いと愚痴をこぼしまくるなんて、ただの甘ったれ野郎です。
しかし最近気づいたのが、寒さに対する感覚は人によってかなり違うのではないかということ。
この写真は一年前の12月5日に撮ったものです。

 

小さすぎて分かりづらいかもしれませんが、真ん中あたりに裸の男がいます。

この時は網に大量の魚が入って揚げるのに苦労したため、暑くなって脱いだそうです。
いくら日中とはいえ12月の海上です。裸になるほど体が熱くなるとは、もはや、私とは体そのものが違うとしか思えません。

東京湾よりはるかに寒い場所で働いている方々は、気合うんぬんよりもまず、普通(というか私)より寒さに強い体なんではないか、と思うに至った次第です。
勿論、寒さに強い体を持った人は冬の海で楽して働いている、なんてことは微塵も思っていません。冷たい波しぶきや雪が舞い散る海上で漁をしている映像を見ると、畏敬の念を抱きます。

ただまあ、北国の人と比較して自分を根性なしと卑下するのは止めようと思っただけです。
寒いもんは寒い。

2017.11.30 コノシロ漁

現在、コノシロ漁をやっております。
海の様子は前回書いた時からたいして変わっておらず、近場でタチウオやサワラが獲れはするのですが、それらはいかんせん量が少なすぎて商売になりません。
コノシロは単価は非常に安いですが今くらいの時期にはまとまって獲れるので、その安さを補う量を確保することでなんとか商売になります。具体的な数量は書けませんが一回の出漁で数十トン獲ります。
これがなかなかキツイ仕事です。
夏場のスズキ漁の場合、一回の網に入る魚の量はせいぜい数百キロ程度で、網数を一日に十数回張ることで量を獲ります。
それに比べてコノシロ漁は一回網を張るだけですが、その一回の網の中に数十トン入ってしまいます。

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直径150メートルくらいの円形に張った網を写真のようになるまで小さく絞り込み、魚をタモですくえる状態にするのが網船の役目です。ある程度機械は使うものの最終的には人力なので、網をつかんで船に引っ張りあげる作業で前腕はパンパンになります。
そして大量の魚を運ぶ運搬船ですが、魚の重みで操船が普段よりずっと難しくなります。急な増減速や転舵をすると、積んでいる魚が遠心力や慣性で移動し重心のバランスが崩れ、ヘタをすると船が転覆する恐れがあります。そのうえ東京湾は大型のタンカーや客船、その他にも大小様々な貨物船などの交通が多く、大きな引き波が前後左右から不意に襲ってくるので、帰港するまで気を抜く暇がありません。
遠い漁場からだと魚を積んでから港に着くまで3時間くらいかかるし、日が沈んで辺りが真っ暗な中で航行する時もあります。
運搬船もほんとうに大変です。

このようなコノシロ漁を何回か続けた結果、11月としては例年を大きく上回る漁獲高になり、親方は慰労の飲み会を開いてくれました。
さて、明日からもう12月です。例年だと12月は稼ぎになる魚は殆どおらず、消化試合のような月です。
でも今年は色々と例年と違います。
コノシロはまだ獲れるか、また需要は続くか(需要がなくなれば単価は暴落し、獲る意味がなくなる)、それとも他の魚が獲れるか(その可能性はほとんどない)、もしくは獲れずに今年の漁は月の半ばくらいで終了になるか。どうなることやら。