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2019.9.30 

千葉県に甚大な被害をもたらした台風15号の通過から2週間ほどは、私達はまともに漁ができませんでした。
海面に漂う大量のゴミや台風と豪雨の影響による潮の速さなど、網を張るのに不都合な要因の他に、魚自体がいつもいる場所からいなくなってしまったのです。
ここで言う魚とは私達のメインターゲットのスズキのことですが、いなくなったといっても東京湾から出て行ってしまったわけではないようです。
先週のある夜、港のすぐ近くの川の水門あたりで数百尾のスズキの群れが泳いでいるのを見ました。
今の時期、スズキは餌を求めて陸近くまで来ます。毎年、今の時期にこの場所にスズキが居るのは珍しくないのですが、数百尾もいるのは初めてです。
親方曰く「沖の水を嫌って逃げてきたんだろう」とのことでした。
湾奥にそそぎこむ川は数多くあります。私達の目についた場所だけで数百尾のスズキがいるのだから、あちこちの川に逃げ込んだスズキの数は相当なものだろうな、と思います。

そしてここ数日の出漁ですが、台風15号通過から約三週間たち、やっと海の様子がよくなり始めてきたような感じです。
スズキがいくらか沖に出てきたし、青物が獲れるようになりました。
主な青物はサバ、ワラサ、アオアジ、サワラ、サゴシ(サワラの小さいもの)です。
特に今日はサゴシが私にとって過去最多の量が獲れ、この魚が湾奥にこれほど入ってきたことに驚きました。
私がこの大平丸ブログを書き始めたのは3年前からですが、その時あたりから「ブリや太刀魚、サワラなど、今まで湾奥では見かけなかったものがここ数年、入ってくるようになった。環境変化のせいだろうか」と何回か書いてきました。

しかし最近、『東京湾の魚類』(平凡社 2011年発行)という本を読み、ちょっとした発見をしました。

この本は東京湾で確認、そして記録された魚を写真付きで解説している本です。
これによると、ブリは「明治から昭和30年代まで、夏になると湾奥まで大型個体が回遊してくることがある」
という記録があり、またサワラの項目には「明治40年(1907)から昭和元年(1926)には浦安沖水深7~9mでサワラ漁が行われており、大正12~13年(1923~24)には、1年で150トンの漁獲があった」という記録があるようです。

これを読んでなんだかホッとしました。
数年前から突然、ブリやタチウオ、サワラが湾奥で獲れるようになったのが、異常気象による影響かと私は不安に思っていたのですが、100年前の東京湾奥にはこれらの魚が普通に回遊して来ていたのです。
逆に、これらが回遊してこなかった数年前までが東京湾の異常事態だったのかもしれません。

なんて言ってみたけどまあ結局、やっぱ海はわからねえなあ。

2019.9.14 台風15号

9日未明、台風15号が関東を直撃、近年まれにみる勢力のまま上陸、通過していきました。

船橋市の私の周辺ではたいした被害はありませんでしたが、仲間の実家がある千葉中部や南部では家屋に相当なダメージを被ったうえに、いまだに断水、停電したままの場所が多くあり、速やかな復旧が望まれます。

台風が過ぎ去った11日の夜、ちょっとナギたので出漁しました。
しかし台風と豪雨の影響により潮流が非常に速く、また流木や草木などの浮遊物がとても多く海に流れ出してきており、まともに漁ができる状態ではなかったので、網を一回張っただけで帰港しました。

港近くの水門の扉にひっかかった、川から流れてきたゴミ。
こんなものが海面いっぱいに浮いています。
網に入るといちいち取り除かねばならないので、手間がかかります。

この台風がくる直前の日は、船橋ではスズキとサバが多く獲れて活気があったのですが、その状況も海がかき回されたことで先行きが怪しくなりました。
これから台風のシーズン到来だし、今月はどれほど出漁できるのか、そして魚は獲れるのか、相変わらず先の見えない日々です。

2019.8.30 コショウダイ

今年の夏はコショウダイがよく網に入ります。

コショウダイは鯛と名がつくだけあって、マダイとかなり似ています。

色柄の他に目立つ違いは胸ビレでしょうか。マダイはシュッと鋭く長いのに対し、コショウダイのは短く幅広ですね。

しかし顔つきはかなり似ているかと思います。
コショウダイを赤く塗ったら、マダイとして通用するんじゃないかと思うほどです。

ちなみにマダイは「スズキ目タイ科」ですが、コショウダイは「スズキ目イサキ科」に属します。
コショウダイ、顔はマダイにそっくりなのに、生物学的にはイサキ寄りってのがおもしろいです。

この魚は昔からまあ獲れるには獲れていましたが、せいぜい月に1尾程度という頻度でした。
それが今年は一日に数尾獲れる日が連続しました。
毎年、なにがしか、一つの魚種が多く「湧く(獲れる)」ことはあります。一昨年の夏は小さなトラフグが大量に獲れました。
だから、なにかがちょっと多く獲れた程度では私は最近は驚かなくなりました。
「まあ、そういうこともあるんだろうな」という感じです。

このコショウダイ、私の回りでは今まで誰も食べたことがありませんでした。
なのでどんな味か知らなかったのですが、最近、テレビで「おいしい魚である」と紹介されたみたいです。

そこで私も食べてみました。
写真の50cm、1.6㎏のものをいただきました。
刺身と塩焼きで食べましたが、とてもうまかったです。

この魚、味はとても良いのに、かなり安いのです。写真の50センチのものなど、まあまあ立派なサイズですが、これで600円程です。
安すぎます。
なんでこんなに安いのか。
今回、この記事を書くにあたりコショウダイについて調べたところ、この魚には寄生虫が付きやすいのだそうです。
私が今回食べた個体には居なかったので気づきませんでした。

魚につく寄生虫といえば有名なのはアニサキスです。
よく、イカやカツオについている、細長く、人間の体内に入ると激しい腹痛を起こすというヤツです。
しかしこのコショウダイにつくのはアニサキスではなく、
ディディモゾイド という寄生虫です。
「ディディモゾイド」
もうね、悪逆非道の限りを尽くしそうな感じですね。名前と語感からして。
ところが意外にも人体には全く無害だそうです。
私が捌いた個体には居なかったので、このディディモゾイドの画像はありませんが、興味のある方はネットで画像検索してください。
キモイです。

コショウダイの相場が安い理由は、この寄生虫が理由なのかもしれません。
味は非常に良いのです。
しかし、かなりの確率で寄生虫がいるとなると、やはり敬遠されてしまうでしょうね。

こんなことを書いてしまって購買意欲がそがれてしまうかもしれませんが、知らずにコショウダイを買って捌いて虫を見つけてしまったら、相当なショックを受けることでしょう。
最初から「居る」と思っていた方がダメージは小さいはずです。
「虫がいてもその部分さえ取り除けば問題ないじゃん」
というタイプの方は、コショウダイを見かけたらぜひ買ってください。大変おいしい魚です。

2019.8.16 アカエイ無情

ここ3回の出漁で4人、アカエイに刺されました。
毎年誰かしら刺されるものの、短期間に4人も刺されたのは初めてです。
別に例年に比べ格段にアカエイが多いという訳でもないのに、何故なのか?
考えてみると、刺された4人のうち2人は今年の4月に入った新人だし、他の2人は今までに刺されたことがなかったので、エイに対する警戒心が薄かったのかもしれません。

刺された新人の一人が言いました。
「最初、他の人が刺されて痛がっているのを見た時、内心、ちょっと大げさに痛がりすぎじゃないの?と思っていました。
しかし自分が刺されて、その痛みがよくわかりました。」
もう何回も書いてますが、アカエイの毒はほんとに痛いのです。
4人のうち1人は手をやられ、3人は長靴ごしに足を刺されました。
エイの鋭い毒針の前では、長靴の2mm程度のゴム厚など紙切れも同然なのです。

アカエイは増加傾向にあり、今後も網に入ってくるのは確定事項なので、なにか防御策を考えねばなりません。

エイに刺されるパターンで一番多いのは、足元にいるのに気づかずに踏んでしまい、攻撃されるというものです。
エイを踏んでしまうと、その瞬間に尻尾が跳ね上がって毒針を刺されます。攻撃される場所は、すね、ふくらはぎ、足の甲、足の甲の両サイドなど、ほぼヒザから下のあらゆる部分が狙われます。

私達が普段使っている長靴は難なく貫通される為、なにか、プロテクター的なものが入っている長靴が売っていないか探しましたが、あるのは、つま先のみを防御する安全靴だけでした。
そりゃまあそうですよね。「アカエイの針を防御できるような、全体が固い長靴」なんて、需要が少なすぎて商売にならないでしょう。

ときに、どのような材質でどれほどの厚みであれば毒針を防げるのか、私が持っている針で色々なものを刺して試してみました。
この針は座布団くらいの大きさのエイのものです。
写真を撮ったのは実験を終えてからだったので、先端が欠けてしまっています。ほんとはもっと鋭いです。

プラ板0.3ミリ(クリアファイル) 難なく貫通
ビールのアルミ缶 余裕で貫通
牛皮手袋 垂直に刺すと貫通
4ミリ厚の皮 刺さらない
コーヒーのスチール缶 針の先端が折れた

皮手袋が簡単に貫かれたのは予想外でした。
斜めに当たると力が流れて刺さらないのですが、垂直に刺すと軽い抵抗の後、ブスッと刺さりました。

まあ結果としては鉄板が最強ということでした。
鉄製の長靴があればエイに刺されることはないでしょう。
しかしそんなものはありません。あったとしても海じゃ錆びるし。

次点で効果が高かった厚い皮。
カウボーイが履いているような、ヒザ近くまであるような革製のブーツは、防御力が高そうです。
でも考えてみたら、皮って濡れると柔らかくなるんですよね。なんかこれも貫通されそうです。
後はまあ、スキーの時に履くようなごついブーツとか。あれなら毒針も弾いてくれるでしょう。
しかし、機動性は最悪だなあ。

かように個人的に色々と昔から考えてはみるのですが、なかなかうまい対策がおもいつきません。

かくして今宵もまた、東京湾のどこかで、エイに刺された漁師の悲鳴が響き渡るのでしょうなあ。
レ・ミゼラブル!!(邦題「ああ!無情!」)

2019.7.29 マサバ サバ缶

今月は初めに一度スズキが大量に獲れたあと、北風が吹き続けて海の様子が変わってしまい、しばらく不漁が続きました。
しかし後半になって南風が吹くようになってからは、まあまあスズキが獲れるようになりました。

おまけにマサバもちょっとした群れが入ってきました。
マサバの旬は秋なので、今回獲れたものは全長の割にいくらか細かったです。

今回獲れた平均サイズのマサバで、上が500グラム、下が450グラムほどです。
記事を書くにあたり食べて味を知るため、オカズとしてもらってきました。
群れのなかに極少数が混じる大きいものには、700グラムを超える個体がいます。そういうものをもらって写真に撮った方が見栄えはいいですが、そんな大きさのマサバは1尾で1000円近くする為、さすがにオカズで持って帰るのは はばかられます。

サバといえば今は空前のサバ缶ブームです。
栄養価が高いとかダイエットに良いとか、メディアで取り上げられるのをよくみかけます。
私達の獲ったサバは、ある程度は箱詰めして鮮魚として出荷しますが、大部分は加工屋に出します。
加工屋に行ったサバがどう調理されるのかは知らないのですが、まあ普通に考えると缶詰になるのだろうな、と思います。

ちょっと前にコンビニでサバ缶を買って開けてみたら、使われているサバがとても小さいので驚いたことがありました。
私のイメージでは、下の写真のように輪切りにしたものが缶にすっぽりと収まるくらいの大きさが普通と思っていました。

しかしそのコンビニのものは、イワシかと思うくらい細いサバの輪切りがたくさん入っていたのです。
あまりのサバ缶人気で通常サイズのサバが手に入らなくなって、仕方なく小さいサバを使ったのかな?と思いました。
それはもう半年くらい前の話なのですが、やはり気になるので今回、メーカーの違う6種類を買って、どれほどの大きさのサバが使われているのか、中身を見てみました。


左2個がコンビニのプライベートブランドの物、右側の4つはいずれも名のある会社の物です。
これだけたくさん買えば、どれかは小さいサバを使ったものがあるだろうと考えていましたが、結果はどの缶詰も普通のサイズでした。
小サバ缶詰が出回ったのはそう多くはなかったのかもしれません。

ちなみにこれらは全て水煮です。
6種類も一気に開けて気付いたのですが、同じ水煮でも会社によってけっこう違うものなんですね。
煮込み具合が、グズグズと言っていいくらいまで火を通したものもあれば、魚体をしっかりと保っているものもあり。身の味も、味付けの感じも会社ごとに違います。
まあケチをつけた訳ではないので書いちゃいますが、今回の缶詰はセブンイレブン、ローソン、キョクヨー、ニッスイ、マルハ、ちょうしたです。
個人的にはマルハのものが一番おいしかったです。

ところで今回、6個もの缶詰を開けてしまいましたが、まあネットで検索すればいくらでもレシピが出てくるので消費には問題がありません。
でも、調べていると必ず出てくるのが、「サバ缶の汁は全部使え」という文言。
汁にはサバの旨味と栄養が大量に溶けだしているから、使わにゃもったいない!ということらしいです。
しかし、、サバ缶の汁って、かなりしょっぱいですぞ?塩分がヤバイんじゃないの?と思います。
もちろん、書いている人は多分、数値とかもちゃんと検証して、汁の使用による塩分摂取量も計算づくなのでしょうが。
私はあの汁を飲むのには抵抗がありますなあ。









2019.7.14 大漁旗

船橋漁港のすぐ近くにある「たいこ橋」に、たくさんの大漁旗が掲げられています。
今年は地元にある八剱(やつるぎ)神社の、三年に一回の本祭りという行事があり、その為に先週程から立てられています。

大漁旗は、新しい船を作った時に大漁を祈念して知り合いや造船所から贈られるのが一般的です。そして船に積んでおき、沖で良い魚が大漁だった場合に、旗を掲げて帰港します。
これは昔、通信手段のなかった時代に、帰港の際に遠くからでも豊漁が分かるように旗を掲げ、陸の水揚げ準備を円滑にさせる目的であった、その名残のようです。

運搬船のマストに掲げられた大漁旗

沖から大漁旗を高々と掲げて帰港するのは、非常に誇らしく気分の良いものです。私も何回か経験しました。
しかし、もう長いこと味わっていません。
前回大漁旗を掲げて帰港したのはいつだったか、忘れてしまいました。

今月、七月に入ってから初めての出漁日に、いきなりスズキが大量に獲れました。
今はスズキも旬で相場も高くなっており、大漁旗を揚げてもおかしくないほどの漁獲量でしたが、しかし、周りの船でもけっこうな量が獲れていた為か、旗を揚げるには至りませんでした。

この大量だった日以降は強い北風が吹き続け、次に出漁できたのは一週間も後でした。
そして北風のせいで海の様子は全く変わってしまい、スズキは殆ど獲れなくなってしまいました。
ほんとに、ままならないもんです。
一気にドカンと獲れるより、毎日ちょっとずつでも安定して獲れるほうがいいのですが、やはり自然相手だと思うようにはいきません。

そこで考えるのが、大きな水槽を用意しておいて、大量に獲れた時は全部を出荷せず、その水槽に活かしておけばいいのでは?そうすれば時化が続いたとしても、うちだけは活魚を出荷できる。
なかなかいいアイディアではありませんか!

、、、ということはまあ、昔から誰でも考えることでして。
そういう発想から養殖業というものができたのだろうな、と思います。

2019.6.28 ミズクラゲ

赤クラゲが猛威を振るい続けております。
相変わらず私達の漁場に大量におり、人と魚にダメージを与えてきて嫌になります。

加えてミズクラゲも増えてきました。

ミズクラゲについて書くのは初めてですが、東京湾には昔から存在し、暑くなってくると大量発生します。
私達は通常、このミズクラゲのことを「クラゲ」と呼んでいるので、文中でもそのように書きます。

直径は大人が手のひらを広げたくらいの大きさで、体の95%は水分から成り、全体的に透き通っています。ちょっと硬めのゼリーくらいの固さで、毒は少しばかりもっているようですが、触っても全く何ともありません。

しかしかなりのやっかいものです。
なにがやっかいかと言うと、非常に密集した、そして数の多い群れをつくるのです。正確に量る術はないので感覚でしか言えませんが、大きな群れは数十~100トン単位で集まっています。
いま、私達の漁場にはこの大量密集ミズクラゲ群が散在しています。
大量のクラゲのことを私達は「大クラゲ(おおくらげ)」」と言います。
大クラゲの入った網は、重さのあまり揚げるのに苦労します。
このクラゲは手で握れば崩すことはできるくらい柔らかいけど、網の目を抜けるほどではなく、目を全部ふさいでしまうのです。

大量に入ってしまうと、その重さのせいで網と機械に負担がかかるので、機械の速度を落とさねばならないし、最後の人力で網を締めこむ作業に時間がかかってしまいます。
更に、大量のクラゲの中から魚だけをコダマですくうのにも時間がかかります。

今の時期のスズキ漁は、網を張る回数が勝負です。
夏のスズキは大きな魚群を作ることはないので、網数を重ねることで漁獲量を稼ぎます。
大クラゲが入った網は、普通に網を張る3回分くらい時間をロスしてしまいます。手間と時間だけかかって良いことは一つもありません。

このクラゲは海面から海底付近まで広範囲に生息します。
そこで、「オモテマワリ」といって船の前部の仕事を担当する者が、海面を注視してクラゲの発見に努めます。
魚群探知機にも大クラゲの群れは映るので、ある程度は避けて網を張ることはできます。
しかしとにかく、あちこちに大クラゲが存在するので、避けてばかりでは網を張ることができなくなってしまう、というジレンマに陥ってしまいます。

社長とクラゲの話をするとよく、「うまく売る方法を考えれば億万長者になれるぞ!」と言われます。
確かに。
どなたかお知恵のある方、湾内のクラゲを獲りつくしてお金儲けしてください。
このクラゲは東京湾のみならず、日本全国で大クラゲ群を作って、漁師だけでなく海辺の施設の取水口に詰まったりして迷惑をかけまくっています。
有効利用法を考え付けばほんとに稼げますぞ。
ちなみに「中華クラゲ」といって売られているものとは種類が違うので、食用にはなりません。

大クラゲが魚群探知機に映ると書きましたが、その映り方が面白いので、いずれ記事にしようと思います。

2019.6.14 イシモチ シログチ ニベ

イシモチが旬です。
ここ数年あまり獲れなかったのですが、今年はちょっと網に入ります。しかも全体的に大きめのものが多く、混じりとしてありがたいです。
私の回りでは皆この魚をイシモチと呼んでいるし、近所のスーパーでもそのように表記され売られていますが、実はこれは正確な呼び方ではありません。
イシモチというのは「シログチ」と「ニベ」という、形が非常に似ていて紛らわしい魚の総称のようなものなのです。

(どちらの写真も上がニベ、下がシログチです。)
見分け方としては、ニベは全体的に黒い小さな点のような模様があります。それとニベの方が大型化します。私達の網に主に入るのはシログチの方で、ニベはたまに混じってくる程度です。
私の回りというか船橋港全体の漁師や水産会社の人たちは殆ど、シログチのことをイシモチと呼びます。
シログチは内湾、ニベは外洋でまとまって獲れるようです。
なので、外洋では多く獲れるニベをイシモチと呼び、シログチのことは「グチ」と呼んで区別するらしいです。
ややこしいですね。
実はさらに、ニベにそっくりの「コイチ」という魚もいるのですが、そいつまで取り上げると収拾がつかなくなるので今回はスルーします。

シログチとは「白い」と「愚痴」という意味があるようです。
この魚は網に入ったり釣られたりすると、「グゥ、、、グゥ、、、」と音を出します。その音が漁獲されたことに不満、愚痴をこぼしているように聞こえるから、グチと名付けられた、という説があるのです。
この魚は船にあげられてもあまり跳ね回りません。
そっと静かに横たわり、そして低い声で「グゥ、、、グゥ、、、」と鳴きます。
私はいつも、なんというか、捕まえてごめんなさい、という気分にさせられます。
実際は鳴き声ではなく浮袋を振動させている音だそうですが、他の魚ではそんな声(?)というか音は聞きません。いったいなんの意味があるのか、不思議に思います。


海で漁獲したばかりのシログチは、ピンクがかった銀色に輝き、宝石みたいでとても美しい色をしています。
しかし死んでしまうとこの輝きは時間経過でどんどん失われてゆくので、売られる頃にはくすんだ色になってしまいます。
沖で見る元気なシログチを華やかな鎧武者に例えるならば、数日たったものはさながら刀折れ矢尽きた落武者。それぐらい見た目が違います。
ひどい例えをしましたが、しかし見た目はくすんでしまっても味は非常に良い魚です。
刺身でうまいのはもちろんですが、塩焼きや煮付けなど、火を通すのがおすすめです。
柔らかいながらしっかりと身に味があり、とてもおいしいです。
皮にうまみが強いので、皮付きのサクの皮だけを炙って刺身にする、焼霜作りもおいしいです。
シログチとニベでは、ニベの方が身に締まりがあります。味は私には大差は感じられません。どちらもおいしい!です。
旬のイシモチは鯛に勝るとも劣らない、などとも言われます。
みかけたら是非ご賞味を。

アカクラゲの対処 2019.5.29

相変わらずアカクラゲが多いです。
ここ最近、全国的に異常に暑くなりました。
暑くなると、アカクラゲが皮膚に付いた時の痛みが増します。
理由はよくわかりません。
私は、暑くなるとアカクラゲも元気になって毒が強くなるのだと思っていたのですが、ある時、仲間に「暑いと汗をかくときに毛穴が開くから、毒がよく染み込むのだ」と聞いて、かなり納得しました。

大量のアカクラゲの中から魚を拾う時に、一番ダメージを受けるのが顔です。
特に目。目にアカクラゲが入ったら痛くて仕事になりません。
そこでみんな、防御手段を考えます。

右側がメガネ。これだと、口や頬がノーガードなので痛いうえ、上下の隙間から目にアカクラゲ汁が侵入してきます。
左は顔面シールド。黒い部分はベルクロのバンドになっており、おでこあたりに巻きます。
これは顔の防御は問題ないですが、呼吸のせいで曇りやすく、視界が悪くなりやすい。

色々と試行錯誤の過程で、こんないかついシールドも検討しました。

シールド付きヘルメット

どれもこれも一長一短あります。
防御力と利便性は反比例の関係にあると申しましょうか。
やはりこういったものはすぐに曇ってしまいます。
温度差で曇るし、クラゲの触手や魚体のヌメリ、魚のウロコなどが張り付き、視界が悪くなります。
曇りや汚れを取るには水洗いが最適ですが、それにはサッと外せる眼鏡タイプが一番早くて楽です。運搬船で魚を拾い終えた後、付けたまま網船の作業にも戻れます。

眼鏡タイプは楽だけど、前述の通り隙が多く、けっこうなダメージをこうむります。
反面、いかついシールドは防御は万全です。しかし、手早く洗えないし網船で作業をするには邪魔になるので、いちいち脱いでどこかに置かねばなりません。 手間がかかります。

結局、色々と試したものの、これだ!というアイテムは今のところありません。皆、痛みか不便さと戦いながらアカクラゲに対処しています。

もうね、赤クラゲが消え去るように神頼みするしかありません。
でもね。もし神様が願いを叶えてくれて、赤クラゲが全て消えたとしてもですね。
、、、いるんですよ、他にも。迷惑なクラゲが。
その名はミズクラゲ。 近いうちに書くことになると思います。

最後に。アカクラゲが顔についてしまってヒリヒリしている時に、水で洗っても、あまり効果は感じられません。逆に、ヒリヒリの範囲を水で広げる感じになってしまいます。
そこは温かいお湯を使って洗ってみましょう。水より簡単にヒリヒリが治ります。
普通の方はあまりフレッシュな赤クラゲに遭遇する機会はないでしょうが、参考までに。

赤クラゲ2019 2019.5.19

五月に入って、赤クラゲが大量に網に入るようになりました。
赤クラゲは毎年必ず今くらいの時期から発生するのはわかっているのですが、ここ数年、どうも発生量が増加しているように感じます。
特に今年は今までで最大の発生量と感じます。これは私だけでなく、同じ海域で働いている他の漁師達と話しても、やはり今年は過去最高じゃないか、と言っています。
過去にアカクラゲについて書いたことがあったので記事を探したら、2年前の4月と5月にありました。

2017.5.17 アカクラゲ 魚編

その2年前の文中でも、「毎年増加しているが、今年は今までで一番多い」と、今回と同じことを書いていました。
なんだか、具体的なデータも出さずに毎年毎年「過去最高の量!」と言っていると、「去年も同じこと言っていたじゃないか。大げさに騒ぎすぎなんだろ」と思われるかもしれません。
赤クラゲの量なんて把握するすべがないので、自分の感覚で言うしかないので仕方がありませんが、まあとにかく、ほんとうに今年も「過去最大量」の赤クラゲです。

その量を見てもらおうと写真を撮りましたが、今回はなんだかあまりうまくいきませんでした。以前の記事の写真の方がよく良く撮れています。

そろそろスズキが旬にむけて脂がついてきているので、今までは船上で氷締めにしていたのを活かして持って帰るようになりました。
「アカクラゲ 魚編」の記事で書いたように、赤クラゲと一緒に網に入ったスズキを活かして持って帰るのは大変です。
運搬船の船長と、運搬船に曳航されて走る伝馬船の船長が2人で、数百~1000尾のスズキの面倒をみます。

網船が網を絞り込み、運搬船に魚を移す際に、
「活けの魚は野締め(氷締め)の魚より価値が高い」
「生きているのを締めるのはいつでもできる。逆は無理」
という理由から、網に入ったスズキは赤クラゲを吸って弱っていようとも、とりあえず活魚水槽に入れられます。
この魚を運搬船に揚げる作業は乗組員全員でやりますが、積み終えれば網船の乗員は次の網の為に運搬船を離れます、。
そうすると、アガリを氷締めにしたり、クラゲや魚の吐き出しで汚れた水槽の水を綺麗にしたり等、スズキの面倒をみるのは基本的に運搬船の船長と伝馬船の乗員の二人きりになります。
しかも、網船が次の網を張ると伝馬船はそのサポートの為に運搬船を離れるので、運搬船船長は一人で魚の面倒を見つつ、他の仕事もしなければなりません。
大変な仕事で、沖にいる間は休む間がありません。
これは普段からこのような作業体制ではありますが、赤クラゲがいると苦労の度合いが一層増してしまうのです。

ほんとにもう、赤クラゲは迷惑な生物です。
かといって発生を阻止するような対策なんてありそうもないし、どうしたらいいものか。
なんなら有効活用に道を見いだすしかないか?と考えたこともありますが、その話はまたいずれ。