投稿者「daiheimaru」のアーカイブ
2025.8.30 ツバクロエイ
毎年、何がしかの魚が例年に比べて多く発生することがありますが、今年はツバクロエイが多いと感じます。
ある日の漁では運搬船のデッキ一面に溢れましたが、こんなに網に入ることはそうそうないです。
ツバクロは持って帰っても売れないし、こうして船上にあげてもすぐには死なないので、全部海に返します。
尻尾に針はあるもののかなり小さく、そしてアカエイと違い尻尾を振り回すこともありません。
私はこのエイを海に返す時は手づかみで戻しますが、刺されたことは一度もありません。
ネットで刺された事例を探してみましたが、アカエイにやられた例ばかりでツバクロに刺されたという話は見つけられませんでした。
私としては、ツバクロエイは尾の針を使う気はないと考えています。
このツバクロエイですが、私は漁の邪魔者としか思っておらず食べることなど考えたことも無かったのですが、最近の大量を機に調べてみたところ、味についての評価が実に高いことがわかりました。
試してみたくなったので運搬船の船長にお願いしたところ、かなり大きくて新鮮なものをもらえました。
ネットで下調べした食べ方で一番興味を惹かれたのが刺身です。
早速解体して生で食べたら、日を置いて熟成した白身魚のような旨味と味がして驚きました。
仲間が二人そばに居たので試食してもらいましたが、二人ともかけね無しにおいしいと評価してくれました。
ちなみに上の刺身ですが、私はエイを捌いたのが初めてで自己流でやってしまったため、切り身というよりほぐし身になってしまいました。
他には定番の煮付けと唐揚げにしました。
味はどちらもおいしく、普通に定食屋で出しても売れると思えるレベルです。
ただ私は一つ失敗してしまい、捌いた時に初めに皮を全て剝いでしまいました。
煮付けや唐揚げなど火を通す場合は皮はそのままのほうが旨味が更に増すようで、次回への教訓となりました。
ツバクロエイはおいしいことがわかりましたが、狙って獲れるものではないうえに、大量に網に入ったとはいえそれは「ツバクロエイとしては大量」という程度の話であり、魚種としてターゲットにはならず市場に出回ることもないと思われます。
入手のハードルは高いですが、釣りや何かしらの伝手で手に入ることがあれば是非食べてみてほしいと思います。
2025.8.13 ワカシとマイワシ
海の変化は急に訪れることがあります。
8月6日に出港した後に一日時化をはさみ8日に出たところ、たった1日あいただけなのに海の様子がだいぶ変わっていました。
6日には一尾も居なかったワカシ(ブリの幼魚)が、8日にはトン単位で網に入ったのです。
上は今回ワカシが入った網ですが、ブリ系は網を締めこむとこのように水面が賑やかになります。
そして同時にワカシだけではなくイワシもけっこう入ってきました。
これも今回の写真ですが、ワカシとは別の場所でマイワシが入った網です。
マイワシもこのように水面で跳ね回って壮観です。コノシロではこういう水しぶきはあがりません。
マイワシは去年の暮れに小羽と呼ばれる小さいサイズのものが湾内に巡ってきていましたが、ひと月ほどで消えました。
それからしばらくほとんど見かけなかったのが、8日にまたけっこうな量が網に入ってきたのです。
本当にたった1日で今まで居なかった魚がどっと入ってくるのだから、おもしろいものです。
おもしろいといえばもう一つ、今回入ってきたイワシの群れですが、小羽だけでなく大きいサイズも居たのです。
例えば去年の暮にきたイワシは全て、小羽と呼ばれる15cm程度の大きさでした。
去年獲れたサイズ↓
しかし今回私たちの網に入ったのは、大羽と呼ばれる20cm超えの立派なサイズでした。
今回獲れたもの↓
捌いてみたら脂もまあまあのっており、塩焼きにすると黄色い脂がポタポタと落ちるほどでした。
この大羽が獲れた日以降は時化と盆休みに入ったので出漁していませんが、次回の出漁では海の様子がどうなっているのか楽しみです。
2025.7.31 ゲート閉鎖
前回の記事で7月前半に3回出漁したと書きました。
3回目に出漁したのは13日でしたが、それから半月も時化が続き次に出漁できたのは28日でした。
28日は朝だけナギで昼には風が吹いてくる予報だったため、朝方の短時間だけコハダ漁をしたので、通常の漁より時間が短く、漁獲もそれほど多くはありませんでした。
次にまともに出漁できたのは29日の夜で、夜のうちにスズキが大量に獲れたうえに翌朝はコハダにも恵まれ、良い漁獲量で帰港できました。
帰港したのが30日の朝7時頃で、水揚げが終わったのが8時半くらいだったと思います。
ちょうどカムチャツカで大地震が発生したころです。
そして9時40分に東京湾に津波注意報が発表され、船橋市にも避難指示が出されました。
船橋漁港は高さ2メートル半のコンクリート製の防潮堤で周囲を囲まれた構造になっており、出入りは防潮堤に設けられたゲートから行います。
このゲートは殆ど年中開放されていますが、年に数回、台風や大雨のせいで潮位が通常の変動より大きく上がる際に閉められます。
今回は東京湾内湾の津波注意報により閉まりました。
これが普段の船橋漁港の入り口です。
これが防潮堤の側面です。左側のコンンクリートが防潮堤で右側の灰色の物体が可動式のゲートです。
かなり厚く安心感があります。
今回の地震の影響は船橋にはあまりありませんでしたが、こういう防災インフラの構築はとても大切なことと改めて考えさせられました。
2025.7.16 スズキ漁好調 アヤ
直近で漁に出た三回のうち二回、スズキがかなりの量獲れました。
本当だったら私は「大漁」と言いたいくらい獲れたのですが、「大漁」かどうかは親方が判断することであり、今回は親方は大漁とは判断しなかったために私もその言葉は使えません。
「大漁」かどうかは周囲の漁獲量や相場も考慮する必要があるので、なかなか判断は難しいのでしょう。
なので私は大漁ではなく大量という言葉を使います。
ところでこの二回のスズキ大量のうち、最初の一回には体験乗船の若者が乗っていました。
過去の記事を読まれている方ならわかるかもしれませんが、この若者はアヤがいいです。
六月中はさほど獲れていなかったスズキが、この若者が乗った日に大量だったのです。
私はこれはただの偶然としか思いませんが、昔ながらの漁師にはこういう縁起を気にする人が未だにいるのも事実です。
↓過去にアヤについて書いた記事です
https://daiheimaru.com/daiheimaru/822/
ちなみに5年前に高校生が体験乗船した日がありましたが、その日はいつもに比べスズキやサバが大量にとれました。
その高校生は今、網船(逆網)の船長をしています。
2025.6.30 ひやめしのにおい 消臭法
時化(しけ)たときの仕事ですが、私は船の網の補修を主にします。
補修をするにあたって、これからの時期はちょっと大変なことがあります。
網がくさいのです。
私達は今、スズキとコハダを狙って漁をしています。
コハダのような小型魚は海中から網を揚げる際に、網にくるまってしまって取り除けず、網の中に残ってしまうものがあります。
それがこの暑さで腐ってしまい、悪臭を放つのです。
写真ではわかりづらいと思いますが、黒い網に白いシミがついているのがわかるでしょうか。
これは腐った魚を取り除いた後に残ったシミです。
網を補修するにはこれに触れねばならないのですが、このシミ程度でもとにかくくさいです。
そしてこのにおいは、付着するとなかなか落ちません。
網仕事を終えた後、せっけんや台所洗剤を使い手を念入りに洗います。
しかし丁寧に洗ったつもりなのに手を嗅ぐと、いくらか軽減されている程度でにおいは消えていません。何回か手洗いを繰り返して、最終的にほんのりくさい程度で諦める、というレベルでなかなか消えないにおいなのです。
このにおいを消すにはどうすればいいか調べたところ、魚の腐敗臭のもとはトリメチルアミンというアルカリ性の物質であり、それは酸性のお酢で中和できるという結論に至りました。
実際にお酢で手洗いを試したところ、台所洗剤では落としきれなかったにおいが消えました。
調べてみるまではお酢で手を洗うなんて考えたこともありませんでした。
お酢は、コハダの酢締めはもとよりコハダの消臭までしてくれるなんて、素晴らしい調味料です。
ちなみに網を一回張れば綺麗になるので、漁獲した魚に匂いが付くことは全くないのでご安心ください。
2025.6.17 シマフグ、ショウサイフグ、コモンフグ
フグが網に入りました。
上がシマフグ、下がショウサイフグです。
上のシマフグですが、模様だけでも怪しさ満点な上に、写真では分かりづらいですが背中の色はメタリックな緑色で、
「こいつは食ったらやばいヤツだ」と感じさせます。
しかし身には毒はないらしく、しかもかなりおいしいらしいです。
下のショウサイフグですが、こちらは知名度がいくらかあると思います。
ショウサイフグはそれ狙いで釣り船が出船するほどの人気があります。
釣るのは難しいけどそれをテクニックを駆使して釣るのが面白く、そして食べるとおいしいので、ショウサイ釣りにハマる釣り人が多いようです。
そしてもう一種、タイトルに書いたコモンフグです。
この写真の4尾のうち、一番上はショウサイフグで他は全部コモンフグです。
実は私、今回の記事を書くまでコモンフグを知りませんでした。
一番上と下の個体を見比べてもらえばわかると思いますが、パッと見た感じではかなり似ているのです。
見分け方を調べたところ、体の模様の形の違いやヒレの色、他に特定部位の皮膚の質感ので区別できるとわかりました。
とくに分かりやすいのが、ショウサイフグの模様は網目状で、コモンフグの模様はそれぞれが独立した紋であるということです。
よく見ると、確かにそのようになっています。
フグは全種類を合わせても一年を通しても数十キロ単位でしか漁獲できないので今まで気にしたことが無かったのですが、今後はもっと意識していきたいです。
やはり魚は面白いですなあ。
2025.5.31 うなぎ?
数日前、河口近くで網を張ったらこんなものが獲れました。
何かおわかりでしょうか。
ひょろ長い胴体にエラあたりがふっくらとした顔つきから、ウナギと思われる方が多いのではないでしょうか。
では顔はというと、こんな感じです。
この顔を見て、「ん?ウナギと違うな」と思われたならなかなか鋭い方です。
この魚はホタテウミヘビです。
名前にウミヘビと入ってはいますが、ウナギ目ウミヘビ科に属し生物学的にはウナギの仲間です。
元気が良くてウネウネするもんでうまく測れませんでしたが、全長80cmくらいあると思います。
ちなみに普通のウナギの顔はこうです。
ホタテウミヘビは顔や口の周辺に模様がありますが、ウナギにはありません。
なので顔をみれば区別はつきます。
区別の仕方は他にもあります。
身の質感がホタテウミヘビはウナギに比べてずっと硬質なのです。
例えばウナギをつついた時の質感を、普通の人の腕をつついた感覚とします。
ホタテウミヘビをつついた時の感覚は、ゴリゴリのマッチョが全力で筋肉に力を込めてポージングしているその腕をつつくような感じです。
ウナギは柔らかみがあるのに対し、ホタテウミヘビは硬質ゴムのような硬さです。
ホタテウミヘビは毒などなく、ウナギの仲間ということもあってか味はおいしいらしいです。
しかし、骨が硬いうえに全身に張り巡らされており、とても食べられたものではないようです。
先ほど「元気が良くて全長がうまく測れない」と書きましたが、実はこの魚、漁獲されてから4時間ほど野締めの状態にありました。
コハダの入った網に紛れており、コハダと共に野締めにされていたのです。野締めは普通の魚はすぐに死んでしまいます。
それが選別の際に見つかって、売り物にならないのでゴミ箱に入れられていました。
私がブログネタにしようとゴミ箱から取り出したらピクリと動いたので、試しに水槽に入れたら息を吹き返して元気になったのです。
ウナギと同じように皮膚呼吸ができるのかもしれません。
撮影後に海に離したら、元気に泳ぎ去っていきました。
2025.5.17 川エビの季節
夜の港を散策してライトで護岸の際を照らすと、赤く光る小さな点が水中のあちらこちらに見えます。
エビの目が光っているのです。
エビが出てくる季節になりました。
毎年、夏が近づいてくるとどこからともなく現れます。
この個体を採取した場所はいつもテナガエビが群れているポイントなので、私はこれを捕まえるまではテナガエビと思っていました。
しかし網ですくってみたらテナガエビとはまるで違いました。
調べると、どうもミナミヌマエビというのに似ている気がしますが、スジエビというのも見た目が似ているうえに生息環境もほぼ同じなので、結局私には種を特定できませんでした。
まあ種はわからなくとも、今年も出てくる時期になったか、と、私なりの季節感の指標となる生物の一つが川エビなのでした。
温暖化だとか乱獲だとか黒潮大蛇行だとか、原因はよくわかりませんが東京湾に限らず魚種の変化が問題になる昨今、いつも通り居てくれた川エビに感謝です。
今回撮影用に採取した川エビですが、丁重に元の場所にお帰り頂きました。
いきなり話は変わりますが、居酒屋の「川えび唐揚げ」、おいしいですよね。