2022.10.29 真鯛

今月は時化が多かったのですが、真鯛が大量に獲れる日が数日あり、少ない出漁回数をある程度補ってくれました。

大量といっても「真鯛としては」という意味ですが、一日の漁獲量と一回の網で入った量、どちらも私の乗った22年間の中で最多記録を更新しました。

真鯛を狙った網はギャンブル的な要素が強くあります。

まず真鯛のいるポイントが根や障害物などのすぐそばなので、網が引っかかって切れてしまうリスクがけっこう高い。

そしてソナーと魚探で反応を確認してから網を張りますが、網の中に入っているかどうかが最後の最後までわからないのです。
全長750メートルほどある網の大半は機械を使って揚げますが、最後の10パーセント程は人力で船に揚げます。
スズキが網に入っている場合だと早い段階で網の中を泳ぎ回っている姿が見えるので、量の多寡がある程度わかります。

ところが真鯛の場合、他の魚だと姿が見えるくらいに網を絞り込んだ状態でも何も見えないのです。
そこで「ああ、この網には真鯛は入らなかったか」とがっかりしながら網の残りを揚げていると、突然、最後になって白い腹を見せて海面に浮かび上がってくるのです。

真鯛は浮袋での浮力の調整がうまくないようで、網に入って海中から引き揚げられると、浮袋が膨れ上がり腹を上にして海面に漂います。

面白いもので魚体の大小に関わらず、網に入った真鯛はほぼ全体が同時に浮かび上がってきます。

今回の一番の大漁の時、真っ先に気付いたのは親方です。

皆で網を揚げている時、先述のとおり網をある程度絞り込んでも魚の姿が見えなかった為、皆、この網は外れだと思っていました。
すると親方が突然、

「へえったぞお!!」と声を張り上げたのです。

「へえった」は「はいった」の江戸弁ですね。
文字で書くと野暮に思えるかもしれませんが、現場でこの言葉を耳にすると格好よく、活気がでます。

親方の視線の先を見ると、船尾方向の海面に真鯛が大量に浮かび上がっており、さらにそれを機に皆の手元辺りにも次々と真鯛が浮かび上がってきて、船上は大童となりました。

この写真、わかる人が見たら
「真鯛同士ががこすれている!網を締めすぎてスペースがないからだ!ウロコが落ちるし魚体に良くない!」
と言われるでしょう。

しかしこれ、実際のところはまだ全然網を締めていません。
通常の量の鯛であれば、網の一番最後に揚がる部分に逃げて行って、最後の締め込みの時に一斉に浮上してきます。
しかしこの時は網の中で鯛が渋滞のような状態になり、網を締めこまないうちから続々とあがってきてしまったのでした。

そして網を締め終わると運搬船に積み込むのですが、小さなタモで少量ずつ手作業ですくわねばなりません。

(上の画像は三年前のもの)

何故だかわからないのですが、鯛は一度膨らませた浮袋を縮める術をもたず、このまま水槽に入れても腹を上にしたまま漂い続け、最終的に死んでしまいます。

これを防ぐためはにエア抜きという作業が必要になります。
鯛の浮袋に穴を開けて空気を抜くのですが、この措置を施したうえで適温の水に入れれば、通常の姿勢に戻って元気に泳ぎます。

エア抜きや水槽の水温に関することなど書きたいことはまだあるのですが、長くなりすぎるのでそれはまたいずれにします。