2021.10.29 サワラの歯

「漁取り」が穴だらけになってしまったので、新しい網に交換しました。
「漁取り(りょうどり)」とは海中に投じた網をすぼめていき最後に魚が残る場所で、ここに穴があったら魚がどんどん逃げてしまいます。
この漁取りは全体の中でも特に太い糸で作られた網で構成されており、普通に使っている分にはそれほど切れたり穴が開いたりはしません。そして穴はキオリという補修で部分的に直せるので、網を交換するまでにはいたりません。

しかしここ最近サワラが網に多く入る日があり、そうすると網はあっという間に、補修が追い付かないほどにボロボロになってしまいます。
サワラの歯で簡単に切られてしまうのです。

そんなサワラの歯はこちら。(過去画像の使いまわしですが)

見た感じでは、小さくてそんなに切れ味が鋭そうには思えないかもしれません。
比較として太刀魚の歯をご覧ください。

どちらかと言えば、太刀魚の歯のほうが凶悪で切れそうです。
もちろん太刀魚の歯でも網に穴はたくさん開きますが、しかしそれはサワラの比ではないのです。
以下にその理由を解説いたします。
サワラも太刀魚も、網を締めこむ作業の時に顔が網に触れることがあるのですが、その時に網が傷つきます。
まずは太刀魚から。
下の青で囲んだ丸二つが太刀魚の開けた穴です。

先ほどの写真でわかるように、太刀魚の歯は長いうえに先端にカエシがあるので、網にぶつかると網の目にひっかかってそのままぶら下がってしまいます。

それを手ではがす時に網が傷つきますが、小さな穴が開くだけです。

一方こちらの黄色い線の横の、長い穴がサワラのものです。

サワラの歯は小さくてひっかからない上に切れ味が良く、さらに自身の体重も重いものだから、顔を突っ込んでしまうと自重で落ちながら網を切り裂きます。

糸と糸の結び目は節(フシ)になっており固いので、フシを避けるように斜めに切れます。
サワラが自ら網に顔を突っ込んでくるのではないのですが、網を締めこむ際にはどうしてもそういう状況が起こります。
こうしてサワラや太刀魚が入る漁を一か月も続けると、漁取りは修理不能なほどにボロボロになるのです。

そんな、サワラのせいでボロボロになるならもっと頑丈な網を使えばいいじゃないか。
と思われるかもしれませんが、網は全体の重量や沈降スピード、多魚種への汎用性など、色々とバランスを考えて構成してあるので、そう簡単な話でもないのです。

何より、太刀魚やサワラが我々の漁場で多く獲れるようになったのが数年前からなので、対策に妙案がまだないのが実情といったところです。

たまにスーパーでサゴシ(小さいサワラ)を一尾で丸のまま売っているのを見かけます。
買って捌くときには歯に触れぬよう、ご注意ください。