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2018.8.30 アカエイ 毒針編

今回はエイの針と毒について書きます。
毒針は、平たい体から伸びているしなやかなムチのような尾っぽ、その真ん中あたりにあります。
この写真では半分剥げていますが、通常は黒い粘膜状のもので覆われています。そしてこの黒い粘膜に毒を作り出す組織があるようで、要はこれが毒です。ただこの毒、指で触っても痛くもないしシビレもしません。刺されて体内に入った時から効力を発するようです。

(※2022年7月追記 黒い粘膜は表皮で、その下に毒腺があり、毒はそこから出るのが正解です)

 

ではまず、針の形状を見ていきます。
写真の上方向が針の先端で、そちらから敵に突き刺さります。拡大してみるとこのように、両端に刺突方向とは逆向きに細かな刃が隙間なく並んでいます。
これは一見、針を刺した時に抜けにくくする為の「カエシ」のように見える為、カエシと解説している文を多く見かけますが、私は少し違うと思います。私は三回刺されたことがあり、刺された時の感覚を覚えています。
この形状は刺突時の抵抗を小さくしてより深く刺さるようにし、引き抜く際には周囲の筋肉組織をひっかけて外にえぐりだし、かつ細かな刃で傷口を荒らすという働きをするのです。
これは、鋭利な刃物でスパッと切った傷はすぐにくっついて治りが早いのに対し、ノコギリなどでギザギザに切れた傷はくっつきづらくなかなか治らないということを利用し、敵により大きなダメージを与える仕組みになっているわけです。
この針は鋭いうえに強靭です。以前、仲間が毒針を真上から踏んでしまったことがありますが、長靴の分厚いゴム底を貫いて足裏に深く刺さりました。
エイの毒針に対しては、服やウエットスーツは全く意味がありません。
唯一の救いは、こちらから手を出さない限りエイから襲ってくることはあり得ないことです。

それでは実際に刺されるとどうなるか。私の体験談です。
私がエイに刺された瞬間、、、
☆針がドスッと刺さる
☆グニグニと針をねじこんでくる
☆何かが針の先から体内に注入されるような感覚がある
☆左右に振りながら抜いていく
これらが一瞬で感じられます。

エイは毒液を注入するスタイルではないからこの感覚は理屈に合わないかもしれませんが、しかし私は実際に感じました。これは他の刺された仲間も同じ感覚があったと言っています。

まずこれが痛みの第一弾です。針に刺された肉体的痛みです。
だいたいの人がここで大きな声をあげるので、エイにやられたなと周りも気づきます。
この刺された痛みは一瞬のもので、それから数分くらいは、傷口は軽く麻痺した感じでたいした痛みはありません。
しかし10分も経つと毒が効いてきます。なんというか、神経を握りつぶされるような、表現しがたい重い痛みが襲ってきます。
もう、仕事なんかやってられないほどの耐え難い痛みです。

エイ毒の対処法は火傷しない程度の熱いお湯に患部を浸すこと。これで痛みはだいぶ和らぎます。しかし十分ほど漬けてもう痛みがなくなったからとお湯からあげると、途端にまた痛み出します。
私の場合、お湯から出しても耐えられるほどに痛みが治まるまでには、約二時間半から三時間ほどかかりました。
だいたいこれくらで毒の効力は消え、あとは刺し傷の痛みが残るくらいです。
(これはあくまで私の場合です。
刺された人の体調や耐性、刺された部位、深さ、刺したエイの大きさ等々、被害状況は全く異なるのですから、エイに刺されたらとにかく医師の手当てを受けるべきです。)

ところで、東京湾にはトビエイというのもいます。

アカエイに比べると網に入ってくる数は少ないのですが、
コイツは毒針を通常で2本、まれに3本も持っています。

一本でも十分に強力な毒針を三本も装備するなんて、コイツはいったい何と戦っているんだろう。。。

2018.8.18 アカエイ

今回はアカエイについて色々書こうと思います。

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アカエイについて知っていることは?と人に問えば、だいたい
「毒針をもった危険生物」か「おつまみのエイヒレの素材」の二点が挙げられることでしょう。
エイは自己防衛用に強力な毒針を尾に持っていますが、その毒は針に刺された時にのみ効果を発するもので、エイ自体の身には毒になる部位は全くありません。全身どこでも食べられます。
しかしエイヒレ以外でアカエイを食べたことがある人はあまり居ないと思います。そもそもアカエイの切り身が普通のスーパーで売られることも殆どありません。
なぜかというと、「エイはサメと同じ軟骨魚類で身にアンモニアを貯めるため、適切な処理を施さないと臭いから」
という回答が一般的かと思います。それはそれで正解として、さらに私が思うのは、エイは他の魚に比べると鮮度管理にそれほど注意が払われていない、というのがあります。
アカエイもサメも、新鮮なものに臭みは全然ありません。
しかしそもそも、アカエイを専門に漁獲する船はなく、エイはあくまで「混じり」や「外道」です。しかも形が特徴的でかさばるし毒針があるし、やっかいな邪魔者です。それゆえ普通の魚に比べて船上では雑に扱われることが多いです。雑というのはあまり鮮度や状態に気を配らないということです。
例えば、サバやイワシが獲れた時には鮮度維持の為に氷や塩を
惜しみなく使います。そして港に帰るまでの間、状態を始終チェックして気を配ります。
エイにはそんなに気を遣うことはありません。鮮度維持に何より重要な氷も、エイにはそんなに使いません。なぜなら船で使う氷は当然有料であり、エイを持ち帰って得られる利益を考えると割に合わないからです。
まあエイといえどもきっちり鮮度管理している船も当然あるでしょうが、全体として考えるとそれほど鮮度にこだわらずに水揚げや流通がなされているから、エイは臭いという評価が一般的であり、そして特筆すべき味でもないために一層、食材とは見なされないということになるのだと思います。

アカエイは船橋巻き網船の活動域には満遍なく存在し、一年を通して網に入ってきます。特に今、夏場に活発になるようで多くなります。水深の浅い場所からそれなりに深い場所まで、とにかく、一回網を張ればだいたい十数匹入ります。
しかしこのエイたちは前述の通り需要はほぼないため、私達は海に戻します。
この、網に入ってくるエイは本当にやっかいなのです。
網を絞っている時点で網にからみ、トゲで網を切り裂きます。タマで運搬船にすくいあげると、トゲ付きの尻尾を振り回すので近寄りがたい。非常に危険です。
非常に危険だからなるべく近寄りたくないのですが、そうもいかない理由があります。
網を張るのはスズキを獲るためです。
タマで網から運搬船に魚を揚げる時は、スズキも、その他の混じりものも全てごちゃ混ぜになっています。そのごちゃまぜ状態の中から即座にスズキを選別して活きのいいうちに水槽に入れなければなりません。
この時、ピチピチ跳ねるスズキたちの魚体の合間から、毒針付きの尾がフンフンとうごめいているのです。

そこで一人から二人、エイを海に返す専属の仕事をする必要があります。手鉤(てかぎ)という道具を使ってエイをひっかけ、海に返します。
うちの船は今人員不足なので、スズキを拾う人間が減ると大変なのですが、しかしスズキを拾う時点で誰かがアカエイに刺されてしまうと更なる戦力ダウンになってしまうので、アカエイ拾い専属の人間は大事な役目なのです。

さて、エイにやられるとそんなにやばいのか?という話ですが、長くなってしまうので、毒針の話は次回にします。
まあとりあえず、刺されたら、可能ならすぐに病院に行くこと。
病院が遠く救急車もすぐに来られない状態だったら、ちょっと熱めのお湯に患部をつけること、それを覚えておくと良いでしょう。

2018.7.30 稚魚

スズキの漁獲が思わしくありません。
ここ数年、七月に風が吹き続けて漁に出られない日が多くなってきていて、今年も例にもれずかなり時化が多いのです。
そのうえ出てもスズキがあまり獲れません。
マサバやシンコといった魚がちらほら獲れはしますが、量がそれほどまとまっていないのでたいした稼ぎにはならないようです。
せいぜい10年くらい前までは、スズキは五月頃から獲れ始め、七月・八月は連日 型の良いスズキを大量に水揚げして良い稼ぎになっていたのですが、ここ数年はなんだかあまり振るいません。

まあ嘆いてばかりいてもしょうがないのでちょっと珍しい生き物の写真を載せます。
今月初め、強い南風が吹き続けていたある日の夜、船橋港の護岸の角、吹き溜まりのような場所で見つけたものです。
写真の真ん中あたりに白いものがポツポツと浮かんでいるのがわかるでしょうか。
白い花びらが水面に舞い落ちたようにも見えるこれは、トビウオの稚魚です。500円玉にちょうど収まるくらいの大きさです。
水面に浮いてユラユラと漂っています。捕まえようとすると、普通の魚のように泳いで逃げるのではなく、スイッスイッとアメンボのように水面を移動するのがおもしろいです。
こんなのがほんとにトビウオになるの?と思われる方もいるかもしれませんが、次の写真を見てください。
これは花びらサイズの群れの近くに一匹だけ泳いでいた、少し大きめの稚魚です。体長は5cmほどでした。もはや成魚と殆ど同じ形をしています。そしてこいつはもう泳ぎを覚えていました。
このトビウオの稚魚は、今くらいの時期に船橋港で昔から普通に見かけます。しかし成魚は東京湾内湾には殆どいません。
年に数匹、網に混じるくらいです。稚魚時代は湾内で過ごして、成長したらでてゆくのでしょう。
東京湾は多種の魚の稚魚のゆりかごなんだとしみじみと実感させられます。
いちおう成魚の写真も載せておきます。
この羽で、一説によると600m飛ぶらしいです。
生物の進化はおもしろいですね。

2018.7.17 そうめ

六月の後半から7月の前半にかけて内湾では南風がずっと吹き続け、巻き網はかれこれ二週間近く出漁できませんでした。
今はもうスズキの旬であり、身に脂もだいぶついてきて相場も上がってきているので、ガンガン獲りたいところです。
しかし率直に言って、六月はスズキの漁獲はあまり芳しくありませんでした。例年ならば獲れる場所を巡っても、あまり良い群れがいないのです。
こんな時に東京湾のベテラン漁師たちと話をすると必ず口にするのが、「ナガシミナミが吹けば海が変って獲れるようになるよ」というセリフです。「ながしみなみ」とは、ここらではしばらくのあいだ強い南風が吹き続けることを意味します。
七月に入ってから初めて出漁できたのは九日になってからでした。前回の出漁から二週間も間が空き、しかも南風がかなり吹いたので海の様子はだいぶ良い方向に変わっているだろうと、期待しつつ網を張りましたが、、、
網に入ったのは、大量のソウメでした。
このソウメのせいでえらい苦労をしました。
ソウメとは、イワシの小さいもののことです。
私はこのブログで常々、イワシが獲れると嬉しいと書いていますが、今更ながら付け加えますが獲れて嬉しいのはある程度成長した大きさのイワシです。
イワシはその大きさで小羽(こば)→小中羽(こちゅうば)→中羽(ちゅうば)→にたり→大羽(おおば)と区別されます。
だいたいスーパーなどで塩焼きや刺身用に売りに出されるのは中羽くらいからで、私達が狙って獲るのもこの中羽以上の大きさからです。

一か月前に使った写真ですが、この真ん中のサイズがギリギリで中羽と言われるくらいで、これより小さいものは小中羽、そしてさらに小さい、世間では小羽と言われるくらいのものを、私達は「そうめ」と呼んでいます。まあサイズに具体的な目安はなく、けっこう適当です。
そして大量のソウメが獲れたせいでなぜ苦労したのかといいますと。
今回のソウメの胴体の太さが、我々が現在使用している網の目の大きさにピッタリはまるサイズだったからです。
網の目にソウメが頭から突っ込んだまま、網から抜けなくなってしまったのです。海中に投じた網全般にわたって大量のイワシが刺さった状態になり、結果、その重さで網が揚がらなくなってしまいました。
網を海から引き揚げるのには油圧式の機械を使うのですが、通常を大きく超える負荷がかかると油圧は止まってしまいます。
しかし網はなんとしても揚げなければならないので、機械をだましだまし、ほんのちょっと網を揚げてはイワシを取り除いて網を軽くし、また網をほんのちょっと揚げて、、、と地道な作業を繰り返して、なんとか最終的には網を揚げることができました。
ちなみに通常なら海中に網を投じてから揚がるまでは20分程ですが、この時は6時間かかりました。
この日、内湾の巻き網船団のいくつかは私達と同じエリアで網を張ったのですが、皆、同じように「ソウメのベタ刺し」をくらって大変な苦労をしていました。
このソウメがもう少し大きく育って網の目に刺さらなくなるまでは、内湾で網を張るのは地雷原を歩くようなもので油断ができません。

ただひとつだけ、良い展望が持てるとしたら、あるベテランが言うには「秋口にイワシが大漁で稼げる年は、だいたい夏頃にソウメのベタ刺しをくらうもんだ。」とのことです。
ここ数年はサバやイワシの回遊がなくて振るわなかった内湾ですが、今年の秋はちょっと期待がもてそうです。

もうひとつ。前々回の記事でマトリという鳥について、「マトリはイワシが大好物で、イワシの大きな群れには必ずついてくる」と書きましたが、、、
この日、数十~百トン単位のイワシ(ソウメ)の群れがいたにも関わらず、私達はマトリを一羽も見かけませんでした。
う~ん。なぜでしょう。群れの大きさとしてはマトリがつくに十分と思われるのですが。

マトリがイワシの群れを追いかける際の基準には、群れの大きさ(魚の量)と同時に魚体のサイズも関わってくるのだろうか。

「大きなイワシの群れには必ずマトリがつく」という説には、まだ検証の余地がありそうです。

2018.6.30 クジラ

10日ほど前から東京湾でクジラの目撃情報が相次ぎ、最近はテレビで動画が紹介されるまでになりました。
物珍しさからかテレビでは、ほのぼのニュースといった分類で扱われているように感じます。
動画をみたコメンテーター達も「大きいですね!」とか、「おっ、ジャンプしてますねえ!」と、クジラの映像を微笑ましく見ている人が大半でした。
実際にクジラは賢いし人に危害を加えることはないから、そのような反応が普通でしょう。

しかし私ら東京湾漁師にとってはあまり笑ってはいられない事態です。
今回のクジラの大きさは報道によれば推定で全長12~13メートル、重さ25トンらしいです。

ぶつかったらただじゃすまない。
大平丸の網船は全長14メートル位で重さは5トン弱。網や装備を積んでいるから実際の排水量はもう少し重くなると思いますが、それでもクジラとの重量差は5倍近いです。
この重量差を人間で例えてみましょう。
横綱の稀勢の里の体重が約180kg、小学5~6年の男子の平均体重が34~38kgなので、ほぼ5倍です。
そして網船の最高速度がだいたい時速25kmほどで、秒速7mほど。これは小学6年生男子の100m走のタイムとほぼ一致します。
つまりですね。網船がクジラにぶつかるということは、小学生が加速をつけて全力で横綱に突進していくのと同じようなものです。ぶちあたったところで、横綱はビクともせずに小学生が弾き飛ばされる姿が容易に想像できます。

まあ本当に船と衝突したら、固いFRP(繊維強化プラスチック)の艦首でクジラも相当なダメージを受けるでしょうが、しかしその時には私達はクジラの心配をしている場合じゃないでしょうね。衝突部分の損傷は免れないだろうから、まずは自船の安全確保に大わらわになることでしょう。

オキエに聞いたところ、海上が穏やかであれば、水面に浮いていてもクジラほどの大きさであれば衝突前にソナーに映る可能性はあるとのことです。そしてクジラだって衝突なんぞしたくないだろうから、わざわざぶつかりにはこないとは思います。
しかし、クジラと船の衝突例は過去に何件もあるのが事実です。
数日前には海ほたるパーキングエリアの北5kmに現れたようですが、そこはモロに私達の漁場でもあります。
こんなデカイのに見えづらいやつにうろついてほしくないです。

ちなみに成体のクジラの食事量は一日に体重の4%だそうです。25トンのクジラだと、一日に1トンの食事が必要になるわけですね。
今回あらわれたクジラはザトウクジラのようです。
多くの人はクジラはプランクトンだけを食べているように思っているかもしれませんが、イカ、サンマ、鮭などの魚も普通に食べます。特にザトウクジラの好物はニシンです。
東京湾にニシンは居ませんが、湾内に大量に居るコノシロは、ニシン目ニシン科。。。
なんかヤバイ気がします。コノシロのおいしさに目覚めちゃって、居着いちゃったらどうしよう。

「海は人間だけのものじゃねえんだぞ!」という声も当然あるでしょうが、私としては早く東京湾から出て行ってほしいです。

2018.6.19 いわし

当ホームページの2015年11月29日の獲れたて情報の記事ですが、
「マイワシが少し入りました。大きな群れがいるかと思いましたが、空を見るとその様子はなさそうです。」
という文章が書かれています。
たぶん殆どの人には意味がわからないと思うので解説と補足をします。
三年前のこの日、網を張ったら500キロほどイワシが獲れました。それまでは全然獲れなかったのに、いきなり現れたのです。
イワシは単価こそ安いものの、大きな群れが湾内に入ってくれば毎日数十トン単位で獲れるため、良い稼ぎになるのです。
なので、突然イワシが獲れると私達は稼ぎになるかもと期待をするわけです。
しかし結局この時はその後イワシは全く獲れず、ただの単発の小さな群れが網に入っただけだったのでした。
冒頭の文章の「空を見上げる」意味ですが、イワシの大群が東京湾内に入ってくる時は、必ずマトリという鳥が一緒についてくるのです。そして私達がイワシを狙って網を張ると、私達の頭上に集結して旋回し、網からこぼれるイワシを狙って大騒ぎするのです。
マトリは俗称で、正式にはオオミズナギドリといいますが、まあマトリのほうが言いやすいですね。この鳥は普段は東京湾の内湾では全く見かけません。
マトリはイワシが大好きなようです。小さい群れにはついてきませんが、数十トン単位のイワシの群れには必ずついてきます。
だからイワシがちょっと獲れた時には空を見上げ、マトリの姿を確認すれば、大きな群れがきているどうかの判断ができるのです。

先週、イワシが一回の網で1トン獲れました。しかしマトリは一羽も見かけなかったので、今回も単発の小さな群れだったということです。
ちなみに今回獲れたイワシですが、同じ群れなのに大きさがマチマチでした。上から100グラム、71グラム、47グラムです。
イワシが大漁の時は殆どの魚体が同じ大きさで揃っています。
そのことからも、やはり今回の群れはイレギュラーと私は考えています。
願わくば今回の群れは先陣で、これからドドッとイワシ本隊に突入してきてほしいものです。
しかしよく考えてみると、先陣の偵察部隊を私達が全滅させてしまったから、もしかして本隊は危機を察知して湾内に入ってこないかも??
どうしましょ、、、

2018.5.31 イシダイ

イシダイが4匹、網に入りました。
仕事の合間に急いで写真を撮ったので全長は測れませんでしたが、この魚が入っている小判型のカゴの下辺の長さが40センチなので、上の写真のイシダイは40センチ少々の大きさです。

一番大きかったこれはたぶん、60センチ近くあるでしょう。重さが3・4キロでした。
イシダイは子供の頃は縞模様がはっきりしてますが、老成すると胴体の縞は消えてクチバシの周囲だけが黒くなります。

イシダイは岩礁や根に住む魚で、「磯の王者」などと呼ばれることもあります。釣り場に行くのに船が必要だったり、釣り餌にアワビ・ウニ・イセエビを使うのが普通だったり、そしてそこまでしてもなかなか釣れなかったりするので、釣り師には「幻の魚」といわれることもあるそうです。

基本的には巻き網漁の網に入る魚ではありません。まあしかしなにかの拍子でちょっと沖に出ることもあるようで、ごくたまに獲れます。感覚で言うと一年に数回獲れる程度です。
それが今回、一回の網に4匹入りました。
かなり珍しいことです。
オキエに理由を聞いてみたところ、「根のあたりの水が悪いから浮いてきたんだべ」とのことでした。

「水が悪い」とは漁師がよく使う言葉です。文字通りに捉えるとなんだか、水が汚いとか汚染されているというように思われてしまうかもしれませんが、そうではありません。
魚は通常、その魚にとって心地の良い温度や、塩分・酸素濃度の海水域で生息している訳です。その魚の好む状態の水を良い水、逆の状態の水を悪い水と、魚の視点からの海水の評価を言っているのです。
水の状態の良否は、それこそ魚によってマチマチです。
だからスズキ漁が芳しくなく、「水が悪くてスズキが居ないなあ」という時でも、ボラは大喜びで跳ねまわっている、なんてこともあります。

先述の通り、イシダイは釣れず、網に入らず、生育が遅いので養殖も盛んではない、なかなかレアな魚です。
こんな魚が4匹もまとまって獲れたのは景気の良い話です。今年はこれから湾内にも活気がでてくる前触れと思いたいです。

2018.5.19 ワカシ?

今月前半の東京湾の様子はよくありませんでした。
連休で休みが多かったうえに強風続きで殆ど出漁できず、しかも出てもスズキがあまり獲れません。
しかしここ最近、カマス、イシモチ、サバなどの、型の良いのがちらほら混じり始めてきて、だんだん夏の海に近づいてきたように感じます。そろそろスズキ漁も本格化することでしょう。

知らない魚が網に入っていました。
全長は12、3センチほどです。
なんだろうと思い水産会社の人に聞いたところ、「ワカシだよ」とのことです。ワカシとはブリの幼魚のことです。
その場には水産会社の人が三人いましたが皆、口を揃えてワカシと言いました。

いやいやいや。いやいやいや。
この水産会社の人たち、先月はこの魚をワカシと言っていたのですぞ。
顔つき、縞模様、尾びれの形、どこをとっても似ても似つかぬ、という言葉がぴったりです。
納得がいかなかった私は今度は仲間の漁師に聞いたところ、皆、ワカシではないと答えました。
しかし、では何という魚かと聞くと誰も知らない。
以前、スマホの画像検索でシマガツオをあっという間に探し当てた仲間が今回も調べてみましたが、わかりませんでした。

結論を言いますとこの魚、ブリの幼魚でした。
水産会社の人たちの言っていたことが正解でした。
ただし!負け惜しみではないですが、今回のような大きさのものは「モジャコ」と呼ばれているようです。
負け惜しみではありません。負け惜しみではありません。

この「モジャコ」という言葉を聞いて、そういえば何年か前にもこの魚が獲れて、その時、仲間のお魚博士が「これはモジャコです!」と言っていたのを思い出しました。
たぶん私はその時、「ほえ~」という感じで聞き流してしまって、たいして記憶に残っていなかったのだと思います。

水産会社の方達、信じなくてスイマセン。
お魚博士の山本君、聞き流しててゴメンナサイ。

2018.4.23 イナダ

今年の四月は例年に比べて陽気が激しい気がします。台風並みの風が吹く日が何日かあったし、ここ数日は真夏みたいな暑さだったり。四月って、こんな感じでしたっけ?

陽気に関係あるのかはわかりませんが、先週、変わったことがありました。
イナダがまとまって獲れたのです。(まな板は幅47センチ)
イナダ(ブリの幼魚)は日本中で獲れるし養殖も盛んなので年中スーパーなどで見かけることと思います。
通常だと、私達の働いている東京湾の湾奥には、夏の終わり頃に回遊してきて網に入ります。
しかし四月にまとまって獲れたことは、私の17年間の経験ではありません。漁師歴60年以上の社長も、こんな時期に入るのは記憶にないと言っていました。
去年からタチウオやサワラなどが、湾奥の今まで獲れなかった場所で獲れるようになりました。ベテラン漁師は「海の様子が変わっているなあ」と言います。
海水温や潮流や天候など様々な要因が複雑に絡んで漁獲種に変化がでてくるのでしょうが、今回のイナダの回遊もその一環なのでしょう。

ところで今回獲れた魚についてですが、通常秋に回遊してくるイナダに比べてかなり痩せていました。
卸会社や他の船の人達は殆どワカシと呼んでいます。
この魚はワカシ→イナダ→ワラサ→ブリと呼称が変わりますが、各段階に統一された明確な基準はありません。体長35~40センチ以上がイナダ、それ以下はワカシ、と、大雑把に区別されています。
今回のものは40センチ以上あるので私はイナダに区分しましたが、周りでは、身が痩せていて軽いからこいつはワカシだ!という意見が多かったです。
食べてみたところ、やはり身には脂がなくあっさりした味だったので、私は切り身を醤油漬けにしました。漬けてしまえば味は調味料で補えるし日持ちするし、お茶漬けにしてもおいしいし、良いこと尽くめです。仲間はこのイナダでナメロウを作って、うまかったとのことです。

このまま東京湾に群れが居着いてくれれば、豊富な餌で脂がノリノリになって更においしいくなること間違いなしなんですが、まあそううまくはいかないのが世の常ですよね。
今年はどんな海になるのかなぁ。

2018.4.1 花見

先週の木曜日に花見をやりました。
ほんとうは出港予定でAM1時に集合したのですが、けっこう風が吹いていたうえ今月は海の様子がまったくもって悪いので、無理して出漁することはないと親方が判断しました。
そして網仕事ではなく、ちょうど見頃の桜を愛でようということになりました。
会社から歩いて30分ほどのところに、川を挟んで桜並木が続いている美しいお花見スポットがあり、毎年いまくらいの時期に時化ると、そこで花見と酒盛りをするのが恒例なのです。
そのような訳で木曜日、朝3時から花見を始めました。
ちなみに翌日の金曜日は予報が完全に悪く、この花見の開始時点で金曜は時化で休みにするとのお達しがありました。そして土曜日は最初から休日なので、つまるところいきなり三連休になりました。
翌日の仕事の心配はしなくていいから、思い切り飲んでくれ!という親方の心意気です。酒もツマミも親方がお金を出してくれます。

ちょっと話が変わりますが今月の初めの記事で、3月2日の朝4時に集合して9時まで待機してそれから出港、仕事が終わったのは21時と書きました。ちょうどその日、新聞の取材も来ていて、同じことが書かれていました。
この記事だけ読むとかなり長時間の拘束で、こんなことが毎日続くとしたらやってられない、と漁師志望の人に敬遠されてしまいますね。
詳しく書かなかった私が悪いのですが、予報ではこの日を逃すとその先1週間は時化が続く見込みだったのです。現に2日の次に出漁できたのは9日後の11日でした。だからこの2日の日は親方は何としても出漁したかったということは理解してもらえると思います。

話を花見に戻します。さっきサラリと書きましたが、朝3時開始です。
さすがに私達の他には誰もいませんでした。
しかし私には驚きだったのが、4時くらいになるとウォーキングする人たちがけっこう居るんですね。まだ真っ暗なのに、ヘッドライトを装着してたり、手にライトを持ってたりして。
私としては、(こんなに朝早くから運動するなんて、いったい何時に起きてどんな生活リズムなのだろう?)と疑問に思います。

そのウォーキングしている方々は私達をみて、(こんな朝っぱらから酒を飲んでいるなんて、一体どんな集団なんだろう?年齢は若いのからオッサンから年寄りまでバラバラだし)と色々疑問に思うことでしょうな。