投稿者「daiheimaru」のアーカイブ

2016.7.21 続・ギマ

~前回のあらすじ~
首都圏の目前に広がり栄養豊富で魚種も豊かな海、
東京湾。スズキの水揚げは日本一を誇る。
東京湾漁師たちは今日も、鮮度最高の魚を食卓に届けるべく、のどかに旬のスズキ漁に精を出していた。
しかしその平穏な暮らしは突如乱された!
3本の強靭なトゲを持ち身体中から粘液を撒き散らす怪魚、
ギマが、東京湾を我が物とすべく進攻してきたのである!
かつて経験したこともないギマの猛攻に、なすすべもない漁師達!このまま戦意を喪失して廃業に追い込まれてしまうのか!?東京湾漁師の命運や如何に!!
、、、というような話だったと思います。たしか。

東京湾のリーサルウェポン、ギマについてですね。
この魚は今後、東京湾から増えこそすれ居なくなるとは思えません。なんとか価値を見出して利用するのが建設的思考です。
以前このホームページを担当していた山本は数年前に既にこの考えに至っており、よくギマを料理していました。
その時は私は「君もよくやるねえ。まぁ精々がんばってくれたまえよ」と、興味がありませんでしたが、最近になって私がギマに熱くなり、仲間から「よくやるねえ」という目で見られるようになりました。
漁師からの視点ではなく、ただの魚としてみるとこのギマ、けっこうかわいい顔をしていると思います。そのうえカラフルだし、怒るとトゲを出すなんてのも観賞魚として飼えば面白いでしょう。
しかし観賞魚の需要なんて微々たるものでしょうから、やはりここは食用として大量消費の道を見出すしかありません。

昔、山本に勧められて食べたことがありますが、正直いって乗り気ではなかったので、味は記憶にありません。
今回、真剣に捌き、味わってみました。
捌くにはまず、ヌルを落とします。
「魚のヌメリは塩でもんで落とすべし」という知識のある方もいらっしゃるでしょうが、ギマにはやらないほうがいいです。塩の無駄遣いになります。水を流しながら魚体をしごき、ヌルを出し切ります。
次に、邪魔なトゲを取り除きたいですが、包丁やキッチンバサミ程度では歯が立ちません。危ないので無理に切ろうとしないで下さい。
船には対ギマ用の為のニッパーが常備してありますが、普通の家庭でニッパーがすぐ手の届くところにあるとは思えません。
トゲを切らずに済む方法でいきましょう。頭のトゲの後ろから黄色の斑点のあたりまで包丁を入れ、頭をお腹の方向に向けてもぐようにすれば、このように内臓と肝が取れます。

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左の赤いのが肝、右が白子です。
この後の身は、普通の魚と同じように三枚におろせます。

 

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まず、肝を生で食べました。
うむ。濃厚。良い肝である。
次に白子を茹でて食べてみました。
うむ。濃厚。良い白子である。
次はさばいた身を刺身で食べてみました。
うむ。。。味がない。
真剣に味わったつもりですが、肝心の身の味が私にはまったく感じられませんでした。旨味も臭みもなし。あるのは歯ごたえだけ。
私だけの感覚ではあてにならないので、仲間にも味見をしてもらいましたが、「味がない」と言いました。
残りの半身を塩焼きにしてみましたが、それも味がない。

困ったなあ。。。ヌルを除去してトゲを気にしてと面倒な思いをして捌いた挙句、うまくはない。
カワハギと同じように肝を醤油で溶いて刺身に付けて食べるなら、キモ好きなひとには良いと思いますが。

今回、刺身と塩焼きで食べてみた結果は、残念ながら「ギマは売りものにならん」ということを再認識しただけでした。
まあ元から売れない魚なんだから結果はこんなものでしょう。
しかし私はまだ諦めたくないので、今後は違う調理を試していこうと思います。

2016.6.25 ギマ

ギマ という名の魚がいます。
魚屋やスーパーに流通することはほぼないので、殆どの方はご存じないでしょう。
こんな魚です。

2008/06/02 09:31

2008/06/02 09:30

背中に1本、お腹に2本、トゲが生えています。このトゲは普段は体に沿えて寝かして泳いでいるのですが、敵に襲われて興奮するとこのように三方向に展開されます。
ひとたびこの状態になったトゲは渾身の力でロックされてしまい、もはや人の力ではたためません。
このトゲは非常に硬く、靴底のゴムなど簡単に貫きます。

そしてこの魚の表皮は紙ヤスリのようにざらついているのに、尋常じゃない量の粘液を出すので胴体はヌルヌルして掴みづらいです。

私が東京湾で漁師になったのは15年前ですが、その当時は一年に数匹しか網に入らず、ベテラン漁師達はこの魚の名前すら知りませんでした。それが年を追うごとに増えてきて、今では多くのギマが東京湾に住み着いてしまいました。
この魚、漁師にとって非常に迷惑なのです。トゲのせいで網がグチャグチャに絡まってしまうし、網を揚げる機械のゴムタイヤがパンクしてしまうのです。
それゆえ網に入ったら取り除かねばなりません。
まあ、数匹ならたいした手間ではないのですが、、、
まとまった群れが網に入ってしまうと、、、
こうなります。

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ちょっとわかりづらいかもしれませんが、白いのは全てギマで、ことごとくトゲで網に絡まっています。
このギマを、一匹づつ、一匹残らず手作業で網から外さなければなりません。
ちなみにこの写真は全体のほんの一部なので、実際のギマの量はこの数十倍です。
この写真の時は全てのギマを取り除くのに2時間以上かかりました。
この時間のロスはとても痛いですが、かといってギマが残ったままでは次の網に支障をきたすので、とにかく早く外すしかありません。

全く持って無益な時間です。
早く外して次の網を張らなきゃ、という焦燥感。
無益な手間に対する疲労感。
ヌルヌルの不快感。
外しても外してもまだいる、先のみえない絶望感。
全てが合わさり、この魚に対する多大な嫌悪感が生じます。
みな、この魚が大嫌いです。見るのも嫌です。
ましてや食う気にはとてもなりません。
かといって海に捨てる訳にはいかないので、外したギマは運搬船に積んで港に持ち帰ります。
しかしこの魚は売れないので、肥料の業者がもっていきます。もちろん、お金になりません。
時間と手間を費やして全く益なし。
ギマさえいなければ普通に網を張って他の魚を狙えていたので、マイナスとすらいえます。

お願い、ギマさん。東京湾から出て行って。。。
ほんとにそう思います。

そもそもこのギマ、なぜ売れないのか?食べられないの?
次回、そのことについて書こうと思います。

2016.5.24 あたためますか

ひとつきほど前のことです。
深夜のコンビニで弁当を買いました。
レジで「あたためますか?」と聞かれましたが、すぐに食べるつもりではなかったので「大丈夫です」と返答しました。
すると店員は訝しげな視線を私に向け、
「大丈夫??」と聞き返してきたので、私は「あ、温めなくていいです」と言い直しました。店員は頷きもせず無言で袋に詰めました。

どうやら日本語にこだわる店員だったようです。
たしかに私の言った「(温めなくて)大丈夫です」は正しい使用法ではないし紛らわしかったかもしれないですが、しかしわざわざ突っ込むほどですかね。
温めるか?という問いに対して「温めても大丈夫である」という使い方をする人って、そんなに居ない気がします。

そこで他の人ではどうなのか試すべく、いくつかのコンビニで毎回違う店員に接して温める物を買ってみました。計9人。そのうち外国人2人。
店員「温めますか?」
私 「大丈夫です」
9人全員、聞き返されることもなくこれで意思の疎通は済みました。

こんなこと普段は意識してなかったのでよく覚えてませんが、私は昔から「大丈夫です」と言っていたと思います。そして今まで何の問題もなかったので、今回の店員のオウム返しには意表をつかれたのです。
この店員のような人には否定のつもりで使う「結構です」や「いいです」も通用しないんでしょうね。「温めても結構なんだな?温めてもいいです、ということなんだな!」などとまくしたててきそうです。
きっぱりと「いえ」と断っても「yeah!?」とか返されそうだし、「いいえ」と言えば「いい家!?」とか言われそう。とにかくどんな返答をしても絡まれる気がしてならない。

こんな細かいことに絡んでくる店員は嫌だなあ。と考えていたら、こんなことを気にしてデータを集めて文章にまでする自分は、傍からみたらもっと細かくて嫌な人間なのだろうか、と気付いてしまいました。
人の振り見て我が振り直せとはこのことでした。

2016.5.17 混じり

半袖で外を歩ける陽気になってきました。
そろそろ寒い時期には居なかった魚種が獲れだす時期です。
巻き網漁では狙った魚以外にも色々な魚が網に入るのですが、それを私達は「混じり(まじり)」と呼びます。
ほんとに混じる程度なので量は少ないのですが、スズキを狙った網に最近はカマス・太刀魚・イシモチなどが入るようになりました。
これらの魚は今の時期のスズキに比べて単価が高かったりするので、嬉しいオマケです。
そしてカマスや太刀魚は肉食魚なので、食べるものはスズキと一緒です。
寒い時期には影も見なかった魚が獲れ出すのは漁場に餌が豊富になってきているということで、これからのスズキ漁にも期待ができるのです。
今、ズズキはグングンと太って身が厚くなってきています。
船橋巻き網漁に活気がでてくるシーズンの到来です。

2016・5・8 連休明け

今回のゴールデンウィーク、船橋漁師のカレンダーでは3連休がありました。
時化で何日も沖に出られないことはしょっちゅうあるので休み自体は多いのですが、しかし事前に定められている定休日としては2連休すら年に数回しかないので、今回の3連休は嬉しいものです。

ただ一つ心配事がありまして。
先月に入った新人達がちゃんと休み明けにも居てくれるかな?ということです。
私の経験則では新人って突然居なくなるのです。
「無理ですサヨウナラ」みたいな置手紙をして消えたのが数人、集合時間に現れず電話も繋がらず、そのままサヨウナラというのがその他大勢。
とにかく、面と向かって「辞めます」と言った新人は殆ど居ないのです。
まあ言いづらい気持ちは分かりますが。

そこで今回の3連休。私は新人が消えるとしたらこの期間だと思っていました。
ですが、ふたを開けてみれば連休明けの集合時間には全員が揃い、皆で出港できました。正直、ホッとしました。心配が杞憂に終わり、これなら当分みんな大丈夫だろうと安堵していたら、、、
昨日、寮に住んでいた新人が1人居なくなりました。辞めたみたいです。これには意表をつかれました。
辞めたのは他県から来ていた者で、休みの間は実家に帰っていたのですが連休明けには戻ってきて沖に出たのです。普通に働いていたように見えましたが、、、
なんというか、フェイントをかけられた気分です。
新人仲間に聞いたら、前から辞めそうな雰囲気はあったそうです。
まあ私としては何度も経験していることだからそんなに驚きはないのですが、しかし、無言で消えるのはいかがなもんだろう、と毎回思います。
どうせ居なくなるんなら愚痴でも何でも一言くらいぶつけていけばいいのになあ。

2016.4.29 新人

去年1年で仲間が3人辞めてしまって人手不足だったのですが、今月になって新人が4人入りました。
4人のうち3人は漁師未経験です。
既に何回か沖に出まして、少々海の荒れている日もあったので船酔いをしないか心配だったのですが、みな平気でした。
私が今まで見てきたなかで「新人」という呼ばれ方のうちに消えていくのは、船酔いに耐えられなかったヤツと仕事に遅刻するヤツが多かったのですが、その点は今回の4人は心配ないようです。
今の時期はまだ網を張る回数は少なく仕事内容はぬるいので、今のうちに手順やするべき事を覚えて、初夏からの本番に備えてほしいものです。

2016.4.14  あや

「アヤ」という言葉があります。
縁起や験を担ぐというような意味合いです。
新人が入ったりテレビなどの取材がきたりなどで人が船に乗ってきた場合、その日の漁が好調なときは「アイツはアヤがいいな」と喜ばれますが、逆に不漁だったら「アイツはアヤが悪い!」と言われ不漁の原因にされて嫌われます。
去年からうちで働いてる仲間が以前違う船で仕事をしていたとき、アヤが悪いからと殴られたなんて話を聞きました。
沖に出てもあまりに不漁が続いたり粗相(人為的ミス)が多かったりすると、「あやなおし」と称して皆で酒を飲むといったこともあります。

私としては、アヤなんてそんなことあるかいな、と思うんですが、けっこう真剣に気にする漁師が多いです。なぜなんでしょうね。
小惑星に探査機を送り込んでサンプルを持ち帰るほど科学が発達した現代において、「アヤ」なんて目に見えず検証しようもない得体のしれない観念が幅を利かしているのです。
まあ、気にする人の心情も理解できないことはないんですがね。
とくに不漁のときなど、自分はいつもと全く変わらず漁をしているのに魚が獲れない、いつもと違うと言えば見知らぬ人間が船に乗っている事。
となると、八つ当たりしたくなっちゃうのも人情として仕方ないかもしれません。

☆今日のワンポイント☆
漁船に乗る予定のある方は、当日の星占いはしっかりチェックしておきましょう。
船頭との血液型の相性診断もわすれずにネ♪

2016.4.1 ふぐ

2016・4・1 フグ
ふぐ。
漢字だと河豚と書きます。
私はフグは海の魚と思っていましたが、世界には淡水に住むフグもいるんですね。
しかし、魚なのになんで豚なんて当て字をされちゃうんでしょう?
ネットで見ると「釣ったときにブーブーと豚みたいに鳴くかららしい」とか「体を膨らました姿が豚みたいだかららしい」と書かれています。
漁師暦15年のわたくし。フグは数千匹触ってきました。確かに声というか音は出しますが、それが豚に似ているかと問われると、いまいち同意しかねます。
私は豚の鳴き声を生で聞いたことはないのですが、やはり「ブーブー」や「ぶひぶひ」が一般的な認識だと思います。
実際にフグをつかんだときの音は「キュウッ!」とか、たまに「ヴッ!」という程度もので、私にはどうも豚の鳴き声と結びつきません。
まあ膨らんだ姿は豚みたいと言われれば納得できるし、鳴き声もなんとなく似ているといえば似ているかも、、、という感じだし、こうなるともう、合わせ技一本!お前の正体は豚だ!川に住む豚なんだな!というかんじで「河豚」となったんでしょうかね。
しかし「河」と「豚」でフグなんて、知らなければ絶対に読めないですよね。もし私がこの読み方を知らなかったとして、
『河豚←この生物は何か?』と問われたら。
(川に住んでて、、太っていて、、漢字の読みはカワブタ、、カワヴタ、、ヴタ、、ヴァ!?
わかった!)
「かば!!」
と力強く答えるでしょう。
ばかです。

2016.3.19 一間

2016.3.19 一間

世間一般と違う漁師の言葉。
前回は「時化」のことを書きました。
海の状況に関わらず沖に出ないことを漁師は時化と言う。
これはまあ、理解しやすいかと思います。

違う使い方のもう一つが「一間」。いっけんです。

漁師は網を測る単位に未だに寸・尺・間を使っています。
むかし使われていた尺貫法では1間=6尺=60寸と定められています。
1寸は約3センチなので1尺は30センチ、一間は180センチとなります。タタミ1枚の長さ。目にする機会も多いですし、長さの感覚がイメージしやすいですよね。

しかし漁師の世界ではなぜか、一間は5尺、150センチなのです。
私が知っている千葉県の船は皆そうですし、色々な漁船に乗っていたことのあるベテランに聞いても同じです。
うちが網を取り寄せている関西の魚網会社でも1間は5尺です。
なので、日本全国ではどうなのかは知りませんが、1間=5尺というのは漁師界に広く定着していると思われます。

なぜなのか。博識なベテランに理由を聞いたことがあります。
「さあなあ。。昔っからそうだからなあ。。」で終わりました。

網だけが特別とは考えにくいから、船の長さなども含め漁師及び海に携わる人々にとっては1間=5尺で統一していたと考えるのが自然です。
今はメートル法の普及でこんな尺貫法の単位など知らなくてもなんの問題もありませんが、一昔前はどうだったんでしょうね。

江戸時代の、家も船も全て木造なくらいの時期の材木屋にて。
宮大工「5間の木をくれ(9m欲しい)」
船大工「5間の木をくれ(7.5m欲しい)」
なんてことになる訳です。混乱必至です。

「起きて半畳寝て一畳」という言い回しがあります。
江戸時代半ばには使われた記録があるようですが、その時代の男性の平均身長は150台半ばと推測されています。
すると5尺のタタミじゃはみでちゃう。6尺のタタミならすっぽり収まります。となるとやはり陸の1間=6尺が正しいのか。。。

それとも。昔は陸も1間=5尺だったけど、都市部で肉食が広まって平均身長が高くなり、それにつれて尺を大きくした。しかし漁師は魚しか食べずたいして身長が伸びなかったから尺もそのままだったとか。。。

結局、私にはわかりません。今後誰かに聞かれたとしたら、
「さあなあ。。昔っからそうだからなあ。。」と答えます。

2016.3.15 時化

時化が続いています。
ここ一週間、沖に出ていません。

「時化(しけ)」というと普通の方は海が荒れている状態をイメージすると思います。
台風時期にテレビレポーターがよく、土砂降りのなかで片手でヘルメットを押さえながら片手でマイクを持ち、「現在○○岬に来ております!横殴りの雨と風で立っているのも困難な状況です!うおー!」と叫んでる背後で、荒波がザッパーンと打ち付けているような状態。
辞書で調べても「海が荒れる・海が荒れて魚が獲れない」という意味です。

しかし漁師の場合はそれに加え、沖に出ないことも時化といいます。
風は全くなく海はべた凪ぎ、日差しも暖かく穏やかな陽気の日でも、なんらかの理由で出漁しない場合は「今日は時化だ」といいます。
海の状態が「荒波ザッパーン!」だろうと「さざなみホワホワ~ン」だろうと、沖に出ない限りはどちらも「きょうはしけだぁ」です。
普通の人の「時化」という感覚とはちょっと違うかと思います。

一般常識と違う言葉とえばもう一つ、言葉というか単位ですが、
「一間」があります。これはまた次回に書こうと思います。