以前「アヤ」という漁師言葉について書き、アヤとは縁起のようなものだと説明しました。
最近、ちょっとそれに関しておもしろいことが起こったので書いてみます。
年に数度、何らかの取材でテレビや雑誌のカメラマンが乗ってきますが、殆ど一回だけ、多くても二回も乗船すれば取材は終了です。
しかるに今年の4月の半ばに初めて乗ってきたテレビカメラマンのA氏は、最終的に10回も乗ってきました。
普通の取材の人は1,2回なのに、このA氏はなぜに10回も乗ってきたのかといいますと、
「魚が大量に入ったシーンを撮りたい」との理由からでした。
A氏が初めて乗った日に獲れたスズキの量を「1」とすると、その後9回目まで、1を超える漁獲の日がありませんでした。
しかし10回目の乗船の日、ついにスズキが「2」獲れました。
しかも、それまであまり居なかったコノシロが「5」獲れるおまけ付きで。
コノシロは値段が安いですが、なかなかの量の為にテレビの映像的には良かったのでしょう。
A氏はこれで満足し、その日で撮影終了となりました。
そしたらですね。
A氏がおりた翌日は強風で時化でしたが、その翌日。
スズキが「6」近く獲れました。しかもこの日はクラゲもなく、コノシロもなく、スズキのみ。ほんとに、一年に数回しかない完璧なスズキ漁でした。
見事にA氏はタイミングを外してしまいました。
大漁の翌日に漁港で朝市があり、そこで偶然A氏と会ったのでその話を伝えたら、「私って、いつもそうなんですよねぇ、、、」
と、ガッカリしていました。
他の船に乗っていたことのある乗組員たちとこの話をしていたら、A氏は「アヤの悪い男」で決定だそうです。
うちの親方はどう思うのか聞いてみたところ、
今回の件はA氏はアヤが悪いのではなく、今回は運とかツキというものがなかっただけだ、とのことでした。
たしかに、獲れていたのが獲れなくなったわけではないので、A氏を「アヤが悪い男」に認定するのは違うと私も思います。
この話、誇張はありません。ほんとにありのままを書きました。
A氏、あと一回だけ乗っていればなあ。
A氏は大量のスズキが撮影できたし、私たちは東京湾のスズキ漁の活気をアピールできたのに。
まあでもこれはしょうがないことです。毎度書きますが、自然相手の商売の難しいところです。
しかし実際にこういう経験をすると、「アヤ」という概念もいくらか真実味を帯びてきます。
「年寄りは迷信深い」というのも、長い人生を生きていればこういう偶然に出会うことも多くなるからなんでしょうね。