2017.8.29 シンコ

今月の初めは例年よりシンコが多く獲れました。
今回はシンコについて少々思うところを書きたいと思います。
シンコって何?と聞かれれば「コノシロの幼魚だよ」と答えるのが正解ですが、考えてみると「コノシロ」ってそんなに一般に馴染みがあるとは思えません。スーパーで「コノシロ」として一匹で売っているのを私は見たことがない。たまに切り身で酢締めにしたものがコハダとして売られているのを見かけますが、たいていの場合使われているのはコノシロです。体の模様の大きさから判断できます。
やはり世間一般ではコノシロより、コハダと言ったほうが通用しやすいのでしょう。

シンコ → コハダ → ナカズミ → コノシロ と、大きさによって名前が変化していく出世魚。
この魚に関して身近で一番耳にするのは「コハダの握り」ではないでしょうか。次点でおせち料理に入っている「コハダ粟漬け(あわづけ)」。あとは期間限定の「シンコの握り」
ナカズミやコノシロという名はあまり日常では耳にしないかと思います。
シンコはその需要の背景から異常ともいえる高値で取引され、獲れたタイミング次第で一キロあたり数万円になります。
八月初めに獲れたシンコです。

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6グラム。一円玉を6枚用意してもらえれば、大きさ、重さが実感できると思います。

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例えばキロ一万円で取引された場合、この一匹が60円。これは私達が港で水揚げした時の値段ですから、これが市場で売られる時には数倍になります。
まあ軽く見積もって3倍になるとしておきましょう。
一匹180円です。
このシンコの仕入れ先ですが、寿司屋以外にありません。そして使い道は「シンコの握り」のみ。
寿司ネタとして使う為には一匹分では小さすぎて足りないので、一貫に数匹使います。3匹使えば「さんまいづけ」4匹使えば「よんまいづけ」と言い、魚の原価だけで500円以上になります。
原価だけで相当な値段なうえに、こんな小さい魚を大量に捌いて調理する職人の手間・暇を考えると、完成品の寿司となればとんでもない高値になるのではないかと思われますが、そうでもないみたいです。
なんでも「シンコは心意気で握る」という風潮があるようです。
江戸前寿司の職人が作るシンコの握りは、己の技術や経験を集約し、自分の腕前を形として表現したものであり、採算は度外視で原料代のみで握るのが粋である、ということらしいです。

伝聞系なのは私はシンコの握りを食べたことがないので、味も値段も知らないからです。
周りの仲間に聞いたところ、3人がシンコの握りを食べたことがあるというので感想を聞きました。
寿司屋の人には不愉快でしょうが、まあ総じて「うまいけど、飛び跳ねて喜ぶほどうまいものではない」という意見でした。
三人とも違う店ですが、このうち一人が食べたのは四枚づけとのことだし、もう一人は値段を覚えていて一貫1500円だったというし、いずれもれっきとしたシンコの握りだったと思われます。
なんとも値段に比して期待外れな感想ですが、まあ、そんなもんでしょうな。
そもそも一番有名どころのコハダにしてからが、さっぱりとした味です。その幼魚であるシンコに至ってはさらに淡白であっさりとした味ということになるでしょう。

ひと昔前まではシンコといえば八月の初めから出回り、三枚から四枚づけ程のものだったようです。
しかし初物は破格の値がつくため、皆が競ってより早く、より小さなもの狙い、流通の発達でそれが素早く全国に届くようになった結果、現在ではシンコは六月から出始め、十二枚づけというものまであります。
さすがに十数枚づけまでいくともはや、そのさばく過程は調理というより細工ですね。手先が器用選手権みたい。
なんだかバカにするような文章になってしまいましたが、そんなつもりは毛頭ない。
ほんとに、小指ほどしかないシンコを大量にさばいて味付けする職人の技と意地には敬意を表します。
しかしまあこの魚、成長に伴い名前が変わるから出世魚なんて言われてますが、コノシロになるとキロ数十円、安い時などキロ数円になってしまいます。シンコの10000分の1です。
大きくなるにつれ価値が激減するのだから、実際は降格魚ですよね。
他にも昔から「コノシロを焼くのは『この城を焼く』に通じて縁起が悪い」と言われたり、鮮度が落ちるとお腹が破けるから切腹魚と言われたり、焼くと人を焼くのと同じ匂いがするとか言われたり。なぜか武士階級の方々にはかなり忌み嫌われていたようです。

コノシロは身の中に小骨が多く入り込んでいて、他の魚と同じやりかたで刺身や焼き物にすると、食べた時に口の中で小骨が当たります。
こういう小骨を許せない人が多数派でしょうが、一方であまり気にしないという派が一定数存在するのも事実。
朝市で魚を対面販売すると、「小骨?そんなの全然きにしないよ!」という人の声がけっこう聞こえてくるので為になります。
私もこの前コノシロを塩焼きで食べましたが、おいしかったです。

神童ともてはやされた子供が大人になるにつれ競争社会の中で埋もれて消えてゆく、ハリウッドで大成功した子役でたまにあるような、そんなうすら寂しいコノシロの人生。
私は声を大にして言いたい!
コノシロにもっと光を!!
シンコとコハダは光物だしね!