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2018.11.30 サバとワラサ

これは11月初旬のある日に獲れた魚です。
3.8キロのワラサと550グラムのマサバで、一回の網で一緒に獲れたものです。鮮度は抜群なうえにどちらも丸くておいしそうです。
皆さん、この二尾のうち一尾を無料で貰えるとしたら、どちらを選びますか?
私は迷わずワラサを選びます。
サバとブリ、どちらが好きかと聞けば意見は半々に分かれると思うけど、だいたいの人はどちらもそれなりにおいしく食べられることでしょう。そうなるとこの二択では、身の量が圧倒的に多いワラサを選ぶ人が多いのではなかろうかと思います。
量のみならず、ワラサの方が大きくて立派だし、高そうだから貰う!という人もいるかもしれません。

なんでいきなりそんな問いを発したかといいますと。
実はこの写真の2尾、ほぼ同じ値段なのです。
ぶっちゃけると、どちらも750円くらい。
信じられます?
私はこの値段を聞いた時、あまりのサバの高値とワラサの安値に耳を疑いました。
世間的にはサバは大衆魚でブリは高級魚という扱いなのに、逆転しちゃってます。

魚の値段は旬や漁獲量によって刻々と変化します。
このころは市場でサバが不足しており、マサバは特にかなりの高値で取引されたようです。
ワラサに関しては、もともとブリ系は全国で獲れるうえに養殖も盛んなので、以前から私達が獲ったイナダなどは天然物とはいえたいした値段はしてません。それゆえ、今回のワラサもさほど高値がつくとは期待してませんでした。
が、しかし、両手で抱えられるほどの立派な魚が、まさか1尾1000円もしないとは思いもよりませんでした。

値段の差は味の差?
このワラサを食べてみたら、外食で食べるブリに比べるといくらか脂が少なく、あっさりとしていました。しかし物足りないということではなく、脂が強すぎるものより飽きずにたくさん食べられるおいしさでした。
一方のサバは、私は食べていないので味はわかりません。
末端価格では数千円になるのだから、それほど払っても食べたい人がいるほどのおいしさなのでしょう。
数千円のサバを食べるって、どんな人なんだろう?
赤坂の料亭で政治家たちが密談しながら、「おぬしもワルよのう。ぬふふふふ、、、」とか言いながら〆サバをつまんだりしてるのかな。

ちなみに今回のワラサ750円というのは、卸会社から漁師に入ってくるものです。市場に出るまでには流通過程で価格はだいぶあがっていきます。いま調べたら、ワラサは豊洲でキロ800円程で取引されてるようです。
キロですぞ。3.8キロなら3040円。まあそれなりと思える値段になっていますね。
そんな訳だから、そこらの市場に行って千円札を差し出して、ワラサをくれ!と言っても相手にされません。ご注意を。

2018.11.17 ワラサ

海の様子がおかしいです。
私がこのブログを受け持ったのは三年前ですが、その頃あたりから、この言葉を使うことが多くなってきた気がします。

今回は何がおかしいのかというと、最近ワラサがちょいちょい網に入るのです。

これは65センチ、3.8キロあります
ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ
ブリの一歩手前の大きさで、このワラサクラスになるともはやスーパーなどでは一匹丸ごとでは売りに出さないかと思います。普通の家庭では持てあましちゃう大きさですね。
このワラサのさらに一歩前のイナダは昔から秋に多く獲れていましたが、ワラサは年に数匹しか取れませんでした。
それが今年はイナダは春に獲れ秋には来ず、初冬になってワラサが獲れるのです。
もうメチャクチャです。何が獲れて何が獲れなくなるのか、私の今までの経験からはさっぱり予測がつきません。
まあ難しいことはあまり深く考えずにワラサに目を向けます。
日頃、スズキを見慣れている私からすると、ワラサは全長に対しての体の丸みが大きく、いかにも脂があっておいしそうです。
実際に食いましたが、とてもおいしかったです。

ブリの味は誰もが知るところだろうし、今回はちょっと変わった部位を取り上げます。

まな板の右上の、なんだかシワシワしたやつ。
これは胃袋です。

よく洗って焼き、

塩を振っていただきます。これで1匹分です。

胃袋の食感はおもしろいです。
クニャクニャだけどコリコリ。
柔らかいけど噛み応えがあります。
味はやはり内臓だけあって、焼き肉屋の牛ホルモンなどに似ています。もちろん、味の濃さは及ぶべくもないですが。
そして飲み込んだ後はさっぱりしていて、後味はスッと消えます。不思議な感覚です。
まさに珍味といえるでしょう。
ただ上の写真の通り、ワラサほどの大きな魚からでもほんのちょっとしか取れないし、そもそも丸ごと一匹入手しなければならない。普通の家庭ではなかなか難しいとは思いますが、機会があれば食べてみてください。

一つだけ注意点をあげると、もし丸ごとの魚を入手して胃袋を調理する場合には、切り開いて内容物を出した後、よく洗ってください。
私は塩を大量にまぶして揉み洗いをし、水で流すのを数回繰り返した後、さらに酒でよく洗います。
ちょっと神経質なくらいに洗ったほうがよいでしょう。胃の内容物や状態にもよりますが、見た目には綺麗に洗ったつもりでも匂いが残っていることがままあります。そうすると臭くて食えたもんじゃありません。

「めんどくせえ!」「たいしてうまくもない物にそんな手間かけてられるか!」という方もおられるでしょう。
ごもっとも。
でもまあ、珍味ってこういうものですよね。

ちなみにワラサ以外でも、スズキでもサワラでも食べられます。機会があればお試し下さい。

2018.10.29 もやい結び

もやい結び 英名ボーラインノット。

数多あるロープの結び方の中でも代表的なものの一つで、「キング オブ ノット」、「結びの王」との別称を冠されるほど実用的な結びです。
ロープワークに縁のない人でも一度くらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。
え?知らない?
そんな人はこの機会に是非とも覚えておくといいでしょう。
覚えておいて損は絶対にありません。

もやい結びの特徴は、
「大きな力が加わっても」
・作った輪の大きさが変わらない
・ほどけづらい
・簡単にほどける
といったところです。
ほどけづらい けど ほどきやすい、と矛盾してますが、これは「自分の意図したとおりに」ということです。
結びの中には大きな力がかかると結び目が滑って勝手にほどけてしまうものがあるし、逆に締まってほどけなくなってしまうものもあります。
「早く楽に結べて」「頑丈なうえに」「解くのも簡単」という、良いことづくめのわがままな要望に対する最適解に、かなり近いのがもやい結びです。

実例をあげますと。
先日、漁の最中に網船の一隻にトラブルがあり、自力航行が不能になってしまいました。そこでもう一隻の網船でロープで引っ張り、曳航した際にもやい結びを使いました。
これが引っ張っているときの写真です。

船首にある「ボウズ」と呼ばれる係船用の突起に、緩衝材として古タイヤをかませ、そこに綱をもやい結びで結んであります。
抵抗の少ない水上とはいえ、5トン以上ある重量の船を二時間ほど引っ張り帰港。
パッと見た感じではタイヤが今にもちぎれそうに見えるかもしれませんが、これは内部に頑丈な丸いゴムが幾重にも重ねられているサカアミ船長作の頑健スペシャルタイヤで、切れる心配はありません。
ロープの結び目というものは、濡れると通常よりずっと固く締まります。それに加えてこの日は少々風が吹いており、船はけっこう揺れたため、ロープはたわんでは突っ張ることを繰り返し、結び目には何度も強い力がかかりました。

さて前振りが長くなりましたが、帰港してこのもやい結びをほどいた際には、何も道具を使わず素手で、しかもほんの一瞬でほどけました。
いい加減な結びでは絶対にこのようにはいきません。
キングオブノットの面目躍如といったところです。

で、もやい結びの結び方ですが。
自分で調べて覚えてください。
「もやい結び」で検索すれば画像も動画もいくらでも出てきますから。ほんとに大量に。
ひと昔前ならこういう技術は本を買うか教室でお金を払うか、または人に頭を下げて教えてもらうなど、なにがしかの労力や対価を支払わねば手に入れられないものでした。
しかしいまや、片手にスマホさえもっていればどこでもなんでも、しかもほぼ無料で情報は手に入る。楽になったもんです。
けどまあ教科書がいくらたくさんあったところで、覚えるのは本人次第。
こういう結び方や網仕事の技術など、他人がやっているのを眺めているとけっこう簡単そうに見えて、自分でもすぐにできるような気になっちゃうもんなんですよね。
だけど実際に自分でロープを手にすると、「あれ?」「あらら?違うな、こうでもないし、ああでもないし、おかしいな??」
という風になってしまう人が殆どです。
私の知る範囲では、目で見ただけで理解して即座に実践できるのは十数人に一人くらいの割合でしかいません。
当然ながら私もできない男ですので、反復練習したり新しい結びを覚えるため、ロープを部屋においてあります。ロープワークの本もたくさん持っています。
新人達の手本となるべく、私は十数年の年季があっても勉強し続けていく姿勢を保ち続けているのです!

うん。ちゃんとロープおいてあります。
しばらく触ってないからホコリかぶっちゃってるけど、やる気はあります。ロープワークの本も、ちょろっと読んだだけで放置しちゃってるけど、、、新しい結び、覚えます!ちゃんとやるつもりだから!
明日、明日から本気だすから!

2018.10.13 バウ

今回は船の話です。
船の部分を指すカタカナでスクリューやブリッジ(船橋・せんきょう)などは耳にすることが多いかと思います。

バルバス・バウという言葉をご存じでしょうか。
英語で「Bulbous(球根状の)」 「Bow(船首)」と書き、日本語では「球状船首」となります。
この写真では船体下側の黒く塗られた部分、喫水線の下の丸い出っ張りのことです。

「船首(せんしゅ)」とは「船の先端部」という意味です。

船首は船が前進する際に波をかき分け、最も水の抵抗を受ける場所です。この部分の抵抗を減らせば減らすほど、船の速度はあがり燃費もよくなるので、昔から形状に様々な工夫が凝らされてきました。その結果、船首の下方、船底部分に丸い出っ張りがある「球状船首」が効果的ということが20世紀初めに発見され、それから現在まで多くの船でこの形状が採用されています。
船の形状に少しでも興味がある方なら「バルバス・バウ」「球状船首」と聞けば、この船底下部の膨らみをイメージするでしょう。

しかし最近このバルバスバウ界に、既存の概念を根底から覆す新星が現れました。
それがこの船です。

今年の五月頃に東京湾に停泊していたものですが、見たこともない船だったので思わず写真を撮ってしまいました。
「なとり」という名のコンテナ船で画像右側が船首です。
通常の船では平坦であるべきところの船首甲板部に、丸く大きな構造物があります。これは操舵室と居住区を備えたブリッジだそうです。
今までのコンテナ船やタンカーのブリッジは、角状でだいたい船体の最後尾に位置するのが普通でしたが、この「なとり」はその真逆をいっています。
なんでもこの船体形状だと、正面からの風圧抵抗を30%ほども減らすことができるそうです。
私は船の形なんて今以上にはたいして進化しないだろうと思っていましたが、まだまだ改善の余地はあるんですね。

ところで「なとり」のこの前部形状を、「球状船首」と呼ぶそうです。この船を作った造船所のホームページにそう書かれているので間違いありません。

はて?
たしかに語句としては全く間違っていないけど、それでは今までの船底下部の出っ張りと区別がつきませんぞ??
私がちょろっと調べた限りでは、区別の仕方について触れている記事などはありませんでした。
ちなみにこの「なとり」は船底下部の球状船首も備えています。
航海中に「バウが損傷した!!」という事態になった時、「え、バウ?上の?下の?」とアタフタしちゃいませんかね?

しかしこの船、太ったネッシーが海面から顔を出してノンビリしているみたいで、なんだかかわいいですな。

2018.9.28 さわら

九月に入りマサバが獲れなくなりましたが、代わりにサワラやアジが獲れました。
今回はサワラについて書こうと思います。


魚編に春と書いてサワラという漢字になります。
関西では、春に産卵のために陸近くに寄り、漁獲が多くなるためにこのような漢字になったようですが、関東では産卵前の栄養を蓄える冬に獲れ、それは寒ザワラと呼ばれ重宝されるそうです。

サワラはフィッシュイーターと呼ばれる海の食物連鎖の上位者で、アジやイワシなどを捕食します。
かなり鋭い歯をもっています。
写真でみると、たくさん並んでいるもののごく小さい歯で、そんなに強そうには見えないかもしれません。しかし、うっかりこいつの口に手を突っ込んで歯に触れてしまうと、 ふすっ という感じで抵抗なく刺さって切れます。切れ味がよいからあまり痛くはないんだけど、何故かなかなか血が止まりません。
サワラは単価が高くて獲れると嬉しい魚なのですが、この鋭い歯ゆえにひとつ大きな問題を起こします。
網に噛みつき、網を切って穴だらけにしてしまうのです。
巻き網漁を大雑把に説明すると、まず網で大きく魚群を囲ってからそれを小さく絞り込んでいき、最後に袋のような状態にした網に魚を集め、そこからタモですくい上げます。
この一連の工程の最後、魚を一か所に集める場所を「りょうどり」と言います。「漁獲り」なのか「両取り」なのか、由来や漢字はわかりませんが、とにかく網の中で一番大事な場所です。
ほんの10センチの穴でもあれば、7~80cmのスズキなどスルンと抜け出てしまうし、小さいけど値段の高い魚もほんとに大量に逃げてしまうため、この「りょうどり」は常に丁寧に補修します。
サワラ以外にもアカエイやタチウオ、カマスなど、りょうどりに穴をあける魚は多くいますが、サワラは他の魚に比べ、あける穴の大きさ、量が格段に多いのです。
たぶん、細かいけど切れ味鋭い歯がたくさん並んでいることに関係があるのだと思います。
サワラがまとまって獲れる時期は、補修をするそばから穴を開けられてしまうので苦労します。
こんなに凶悪な歯を持ったサワラが船上で暴れたら大変なことになりそうですが、実際のところはこの魚、海中から上げた途端に大人しくなります。
スズキは海中から上げてもビッタンバッタンと跳ねまわるし、アジやサバはシビビビッと暴れまくります。
しかるにサワラは、一度海水からあげてしまうとその長い体をグデーッと横たえ、ピクリとも動きません。尾びれを掴んで持ち上げても、微動だにせず生命の鼓動を感じない。
なすがまま、されるがままのマグロ状態です。サワラなのに。

サワラは往生際がいいとみる向きもあるかもしれません。
サワラ「うぬ、水から上げられた以上、もはやこれまで!」と観念しているのだと。
それはたぶん、買いかぶりすぎです。
実はサワラはかなりの虚弱体質で、衝撃に弱いのです。
身がとても柔らかく、ぶつけるとすぐに打ち身になってしまいます。打ち身とは身に血が回ることで、捌くと普通は真っ白な身がドス黒い血の色に染まってしまいます。こうなったらとてもじゃないが刺身にはできません。
それに加えて身がとても割れやすい。
野締めの時に体が曲がった状態で硬直してしまうと、出荷の箱詰めの際に体をまっすぐに伸ばさなければなりませんが、サワラはこれをすると身が割れてしまい価値がなくなります。
ほんとに、顔に似合わず非常にデリケートなので、扱いに注意を要する魚です。
しかし丁寧に扱って水揚げすれば、それはそれはおいしい魚なのであります。
有名なのは西京漬けですが、私が最近聞いたのはサワラの昆布締めで、これは実においしいそうです。

そんなサワラもそろそろ漁獲が減ってきました。
さて、次は何が獲れるやら。本来ならこの時期はサバやイナダがガンガン獲れる時期なんだがなあ。

2018.9.18 最近の海の様子

先月はスズキがたいして獲れませんでしたが、代わりにマサバがまあまあ獲れました。
夏場にマサバが獲れるのは初めてではありませんが、今回は量が多くしかも継続したのが珍しいです。

私がこの大平丸ブログを受け持ってから三回目の夏が過ぎましたが、自分で思いますが「海の様子がおかしい」ということをよく書いています。
ここ数年、以前と比べ獲れるべき時期や場所にかなりの変化がでています。(以前とは、私が大平丸で働き始めた2001年以降のことです)
私が書いた記事からからだけでもいくつか例をあげますと。

☆今まではスズキは6月頃から獲れ始め、7月、8月には景気よく獲っていたのに、8月後半になってからやっと獲れ始める
☆タチウオやサワラが今まで居なかった場所でけっこうな数が獲れる
☆秋に回遊してくるサバが夏に獲れ、初秋に獲れるイナダが春に獲れた。そして秋には全くみえない

まあ「海の様子がおかしい」というのは漁師視点な訳で、魚からすればいつどこを泳ごうが魚の自由です。餌や温度など快適な場所を求めて移動しているその環境に、今までと変化があったということなのでしょう。
その環境の変化とは、近年の猛暑、強烈化する台風、黒潮大蛇行、何が原因なのかは私にはわかりません。
居るべき時期にいない、居ないはずの場所にいる、こういったイレギュラーな事態はどう捉えるべきなのでしょうね。

そういえば三か月ほど前、内湾でクジラの目撃情報が相次いでテレビでもニュースになりました。
ニュースは一過性で終わりその後の報道はありませんが、このクジラはまだ居ます。今月に入ってから刺し網漁の人が遭遇し、動画を撮影しました。
う~ん、内湾が気に入ってしまったのだろうか。
どうせ居着くのなら、ギマやアカエイを主食にしてくれればありがたいんだがなあ。

2018.8.30 アカエイ 毒針編

今回はエイの針と毒について書きます。
毒針は、平たい体から伸びているしなやかなムチのような尾っぽ、その真ん中あたりにあります。
この写真では半分剥げていますが、通常は黒い粘膜状のもので覆われています。そしてこの黒い粘膜に毒を作り出す組織があるようで、要はこれが毒です。ただこの毒、指で触っても痛くもないしシビレもしません。刺されて体内に入った時から効力を発するようです。

ではまず、針の形状を見ていきます。
写真の上方向が針の先端で、そちらから敵に突き刺さります。拡大してみるとこのように、両端に刺突方向とは逆向きに細かな刃が隙間なく並んでいます。
これは一見、針を刺した時に抜けにくくする為の「カエシ」のように見える為、カエシと解説している文を多く見かけますが、私は少し違うと思います。私は三回刺されたことがあり、刺された時の感覚を覚えています。
この形状は刺突時の抵抗を小さくしてより深く刺さるようにし、引き抜く際には周囲の筋肉組織をひっかけて外にえぐりだし、かつ細かな刃で傷口を荒らすという働きをするのです。
これは、鋭利な刃物でスパッと切った傷はすぐにくっついて治りが早いのに対し、ノコギリなどでギザギザに切れた傷はくっつきづらくなかなか治らないということを利用し、敵により大きなダメージを与える仕組みになっているわけです。
この針は鋭いうえに強靭です。以前、仲間が毒針を真上から踏んでしまったことがありますが、長靴の分厚いゴム底を貫いて足裏に深く刺さりました。
エイの毒針に対しては、服やウエットスーツは全く意味がありません。
唯一の救いは、こちらから手を出さない限りエイから襲ってくることはあり得ないことです。

それでは実際に刺されるとどうなるか。私の体験談です。
私がエイに刺された瞬間、、、
☆針がドスッと刺さる
☆グニグニと針をねじこんでくる
☆何かが針の先から体内に注入されるような感覚がある
☆左右に振りながら抜いていく
これらが一瞬で感じられます。

エイは毒液を注入するスタイルではないからこの感覚は理屈に合わないかもしれませんが、しかし私は実際に感じました。これは他の刺された仲間も同じ感覚があったと言っています。

まずこれが痛みの第一弾です。針に刺された肉体的痛みです。
だいたいの人がここで大きな声をあげるので、エイにやられたなと周りも気づきます。
この刺された痛みは一瞬のもので、それから数分くらいは、傷口は軽く麻痺した感じでたいした痛みはありません。
しかし10分も経つと毒が効いてきます。なんというか、神経を握りつぶされるような、表現しがたい重い痛みが襲ってきます。
もう、仕事なんかやってられないほどの耐え難い痛みです。

エイ毒の対処法は火傷しない程度の熱いお湯に患部を浸すこと。これで痛みはだいぶ和らぎます。しかし十分ほど漬けてもう痛みがなくなったからとお湯からあげると、途端にまた痛み出します。
私の場合、お湯から出しても耐えられるほどに痛みが治まるまでには、約二時間半から三時間ほどかかりました。
だいたいこれくらで毒の効力は消え、あとは刺し傷の痛みが残るくらいです。
(これはあくまで私の場合です。
刺された人の体調や耐性、刺された部位、深さ、刺したエイの大きさ等々、被害状況は全く異なるのですから、エイに刺されたらとにかく医師の手当てを受けるべきです。)

ところで、東京湾にはトビエイというのもいます。

アカエイに比べると網に入ってくる数は少ないのですが、
コイツは毒針を通常で2本、まれに3本も持っています。

一本でも十分に強力な毒針を三本も装備するなんて、コイツはいったい何と戦っているんだろう。。。

2018.8.18 アカエイ

今回はアカエイについて色々書こうと思います。

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アカエイについて知っていることは?と人に問えば、だいたい
「毒針をもった危険生物」か「おつまみのエイヒレの素材」の二点が挙げられることでしょう。
エイは自己防衛用に強力な毒針を尾に持っていますが、その毒は針に刺された時にのみ効果を発するもので、エイ自体の身には毒になる部位は全くありません。全身どこでも食べられます。
しかしエイヒレ以外でアカエイを食べたことがある人はあまり居ないと思います。そもそもアカエイの切り身が普通のスーパーで売られることも殆どありません。
なぜかというと、「エイはサメと同じ軟骨魚類で身にアンモニアを貯めるため、適切な処理を施さないと臭いから」
という回答が一般的かと思います。それはそれで正解として、さらに私が思うのは、エイは他の魚に比べると鮮度管理にそれほど注意が払われていない、というのがあります。
アカエイもサメも、新鮮なものに臭みは全然ありません。
しかしそもそも、アカエイを専門に漁獲する船はなく、エイはあくまで「混じり」や「外道」です。しかも形が特徴的でかさばるし毒針があるし、やっかいな邪魔者です。それゆえ普通の魚に比べて船上では雑に扱われることが多いです。雑というのはあまり鮮度や状態に気を配らないということです。
例えば、サバやイワシが獲れた時には鮮度維持の為に氷や塩を
惜しみなく使います。そして港に帰るまでの間、状態を始終チェックして気を配ります。
エイにはそんなに気を遣うことはありません。鮮度維持に何より重要な氷も、エイにはそんなに使いません。なぜなら船で使う氷は当然有料であり、エイを持ち帰って得られる利益を考えると割に合わないからです。
まあエイといえどもきっちり鮮度管理している船も当然あるでしょうが、全体として考えるとそれほど鮮度にこだわらずに水揚げや流通がなされているから、エイは臭いという評価が一般的であり、そして特筆すべき味でもないために一層、食材とは見なされないということになるのだと思います。

アカエイは船橋巻き網船の活動域には満遍なく存在し、一年を通して網に入ってきます。特に今、夏場に活発になるようで多くなります。水深の浅い場所からそれなりに深い場所まで、とにかく、一回網を張ればだいたい十数匹入ります。
しかしこのエイたちは前述の通り需要はほぼないため、私達は海に戻します。
この、網に入ってくるエイは本当にやっかいなのです。
網を絞っている時点で網にからみ、トゲで網を切り裂きます。タマで運搬船にすくいあげると、トゲ付きの尻尾を振り回すので近寄りがたい。非常に危険です。
非常に危険だからなるべく近寄りたくないのですが、そうもいかない理由があります。
網を張るのはスズキを獲るためです。
タマで網から運搬船に魚を揚げる時は、スズキも、その他の混じりものも全てごちゃ混ぜになっています。そのごちゃまぜ状態の中から即座にスズキを選別して活きのいいうちに水槽に入れなければなりません。
この時、ピチピチ跳ねるスズキたちの魚体の合間から、毒針付きの尾がフンフンとうごめいているのです。

そこで一人から二人、エイを海に返す専属の仕事をする必要があります。手鉤(てかぎ)という道具を使ってエイをひっかけ、海に返します。
うちの船は今人員不足なので、スズキを拾う人間が減ると大変なのですが、しかしスズキを拾う時点で誰かがアカエイに刺されてしまうと更なる戦力ダウンになってしまうので、アカエイ拾い専属の人間は大事な役目なのです。

さて、エイにやられるとそんなにやばいのか?という話ですが、長くなってしまうので、毒針の話は次回にします。
まあとりあえず、刺されたら、可能ならすぐに病院に行くこと。
病院が遠く救急車もすぐに来られない状態だったら、ちょっと熱めのお湯に患部をつけること、それを覚えておくと良いでしょう。

2018.7.30 稚魚

スズキの漁獲が思わしくありません。
ここ数年、七月に風が吹き続けて漁に出られない日が多くなってきていて、今年も例にもれずかなり時化が多いのです。
そのうえ出てもスズキがあまり獲れません。
マサバやシンコといった魚がちらほら獲れはしますが、量がそれほどまとまっていないのでたいした稼ぎにはならないようです。
せいぜい10年くらい前までは、スズキは五月頃から獲れ始め、七月・八月は連日 型の良いスズキを大量に水揚げして良い稼ぎになっていたのですが、ここ数年はなんだかあまり振るいません。

まあ嘆いてばかりいてもしょうがないのでちょっと珍しい生き物の写真を載せます。
今月初め、強い南風が吹き続けていたある日の夜、船橋港の護岸の角、吹き溜まりのような場所で見つけたものです。
写真の真ん中あたりに白いものがポツポツと浮かんでいるのがわかるでしょうか。
白い花びらが水面に舞い落ちたようにも見えるこれは、トビウオの稚魚です。500円玉にちょうど収まるくらいの大きさです。
水面に浮いてユラユラと漂っています。捕まえようとすると、普通の魚のように泳いで逃げるのではなく、スイッスイッとアメンボのように水面を移動するのがおもしろいです。
こんなのがほんとにトビウオになるの?と思われる方もいるかもしれませんが、次の写真を見てください。
これは花びらサイズの群れの近くに一匹だけ泳いでいた、少し大きめの稚魚です。体長は5cmほどでした。もはや成魚と殆ど同じ形をしています。そしてこいつはもう泳ぎを覚えていました。
このトビウオの稚魚は、今くらいの時期に船橋港で昔から普通に見かけます。しかし成魚は東京湾内湾には殆どいません。
年に数匹、網に混じるくらいです。稚魚時代は湾内で過ごして、成長したらでてゆくのでしょう。
東京湾は多種の魚の稚魚のゆりかごなんだとしみじみと実感させられます。
いちおう成魚の写真も載せておきます。
この羽で、一説によると600m飛ぶらしいです。
生物の進化はおもしろいですね。

2018.7.17 そうめ

六月の後半から7月の前半にかけて内湾では南風がずっと吹き続け、巻き網はかれこれ二週間近く出漁できませんでした。
今はもうスズキの旬であり、身に脂もだいぶついてきて相場も上がってきているので、ガンガン獲りたいところです。
しかし率直に言って、六月はスズキの漁獲はあまり芳しくありませんでした。例年ならば獲れる場所を巡っても、あまり良い群れがいないのです。
こんな時に東京湾のベテラン漁師たちと話をすると必ず口にするのが、「ナガシミナミが吹けば海が変って獲れるようになるよ」というセリフです。「ながしみなみ」とは、ここらではしばらくのあいだ強い南風が吹き続けることを意味します。
七月に入ってから初めて出漁できたのは九日になってからでした。前回の出漁から二週間も間が空き、しかも南風がかなり吹いたので海の様子はだいぶ良い方向に変わっているだろうと、期待しつつ網を張りましたが、、、
網に入ったのは、大量のソウメでした。
このソウメのせいでえらい苦労をしました。
ソウメとは、イワシの小さいもののことです。
私はこのブログで常々、イワシが獲れると嬉しいと書いていますが、今更ながら付け加えますが獲れて嬉しいのはある程度成長した大きさのイワシです。
イワシはその大きさで小羽(こば)→小中羽(こちゅうば)→中羽(ちゅうば)→にたり→大羽(おおば)と区別されます。
だいたいスーパーなどで塩焼きや刺身用に売りに出されるのは中羽くらいからで、私達が狙って獲るのもこの中羽以上の大きさからです。

一か月前に使った写真ですが、この真ん中のサイズがギリギリで中羽と言われるくらいで、これより小さいものは小中羽、そしてさらに小さい、世間では小羽と言われるくらいのものを、私達は「そうめ」と呼んでいます。まあサイズに具体的な目安はなく、けっこう適当です。
そして大量のソウメが獲れたせいでなぜ苦労したのかといいますと。
今回のソウメの胴体の太さが、我々が現在使用している網の目の大きさにピッタリはまるサイズだったからです。
網の目にソウメが頭から突っ込んだまま、網から抜けなくなってしまったのです。海中に投じた網全般にわたって大量のイワシが刺さった状態になり、結果、その重さで網が揚がらなくなってしまいました。
網を海から引き揚げるのには油圧式の機械を使うのですが、通常を大きく超える負荷がかかると油圧は止まってしまいます。
しかし網はなんとしても揚げなければならないので、機械をだましだまし、ほんのちょっと網を揚げてはイワシを取り除いて網を軽くし、また網をほんのちょっと揚げて、、、と地道な作業を繰り返して、なんとか最終的には網を揚げることができました。
ちなみに通常なら海中に網を投じてから揚がるまでは20分程ですが、この時は6時間かかりました。
この日、内湾の巻き網船団のいくつかは私達と同じエリアで網を張ったのですが、皆、同じように「ソウメのベタ刺し」をくらって大変な苦労をしていました。
このソウメがもう少し大きく育って網の目に刺さらなくなるまでは、内湾で網を張るのは地雷原を歩くようなもので油断ができません。

ただひとつだけ、良い展望が持てるとしたら、あるベテランが言うには「秋口にイワシが大漁で稼げる年は、だいたい夏頃にソウメのベタ刺しをくらうもんだ。」とのことです。
ここ数年はサバやイワシの回遊がなくて振るわなかった内湾ですが、今年の秋はちょっと期待がもてそうです。

もうひとつ。前々回の記事でマトリという鳥について、「マトリはイワシが大好物で、イワシの大きな群れには必ずついてくる」と書きましたが、、、
この日、数十~百トン単位のイワシ(ソウメ)の群れがいたにも関わらず、私達はマトリを一羽も見かけませんでした。
う~ん。なぜでしょう。群れの大きさとしてはマトリがつくに十分と思われるのですが。

マトリがイワシの群れを追いかける際の基準には、群れの大きさ(魚の量)と同時に魚体のサイズも関わってくるのだろうか。

「大きなイワシの群れには必ずマトリがつく」という説には、まだ検証の余地がありそうです。